血の夜/九

 
「覚えてねーのかよ。ッたく…」















悟浄はベッド傍にあるイスに座り、頭を掻いた
ただその姿はガッカリしているように見えて…















「あ…
私がヴァンパイアになって生涯一緒にって言ったのは本気ですよ」


「あ…?」


「もし悟浄さんがヴァンパイアなら、血を吸い尽くされても
今後数百年共に過ごす同じヴァンパイアになろうとも
私は本望って思ってます」















頭を下げて掻いた手が止まり
頭を下げたままで顔を惷香へと向けた















「本気で言ってンのかよ」


「本気じゃなければ、そもそも来ませんし言いませんよ」


「そっか…」















ガシャガシャと頭を掻いて悟浄は立ち上がった
惷香もベッドから出ると悟浄の傍へと行く










「何かヘンな事言ってすみません。
こんなんだから私ヘンなヤツって言われちゃって」















笑いながらも嫌われたくない気持ちで泣きそうになる。
悟浄の背中からは何も悟れず、何も言わない


それに更に不安が募って…








そんな最中に異様に喉が乾いた
生唾を飲むようにしても潤わず、部屋にあった水差しから水を飲んだ。


しかし全く変わらずに風邪でも引いたかと思った。















「ン?喉乾いたってか?」


「はい…」


「ンじゃこれ飲めって」















悟浄から差し出されたのはグラスに注がれた赤ワインのようで
惷香はグラスを両手に包んで一気に飲み干した


だけどそれは赤ワインじゃなく――















「これ…」


「アンタ言ったろ?
俺を1人にさせたくないってよ」


「え…」


「言ったろ?
生涯の伴侶になって傍にいたいってよ」


「はっ!?」















悟浄の申し訳ない視線で頭が真っ白になる。
ピリッと痛む首元に右手で触れた


ボコッ…と言う2つの感覚に部屋に『え?』と驚きながら
壁際にある鏡台に近寄る




鏡に映った自分
その右首、耳の下の方に穴ようなものが1つ――















「こ…れ…」


「…本来なら吸い尽くすんだけどよォ」


「え…?」















悟浄は頭を掻きながらため息混じりに
申し訳なさそうな顔でまっすぐに見つめた















「アンタが言うように俺はヴァンパイアだし、これでアンタもヴァンパイアになったって訳だ。
起きた時少しの太陽でも体調悪くなったろ?」


「え?あれ二日酔いじゃ?」


「あンなんで二日酔いになっかよ。
太陽で灰になるとかねーけど、眩しくて気分が悪くなる。
ニンニクも食うし十字架も気にもしねーけどな」


「はぁ…」















脳内処理が追いつかない
自分の妄想が現実に?

鏡の自分を見ても首元の2つの穴くらいしか変化もない。















「その噛み跡は時間で消える。
飯を食っても満足もしなかったろ?
喉も水じゃ潤わないモンだし、今は輸血の血液があるからな
代用できンだよ」















先ほど渡された赤ワインのようなもの
それって…















「それじゃ私…」















悟浄は惷香を真っ直ぐ見据え
右手を掴むと 手の甲に唇をそっと当てた














「俺と共に生きていかねーか?
呆れたら見捨てちまっていい。
俺ァ誰かを同類にしようと思ったコトがねーから不満だらけかもしれねーけどな」














ゾワリ――
背筋に走り 生まれて初めてのプロポーズ
それが自分の描いていた悟浄からの、ヴァンパイアへの変貌だと全身が泡立つ感覚になる

自然と顔が笑ってしまう



















「ならッ!まず食事を用意したのが誰か教えてください」


「ありゃなァ
コウモリだよ」















冗談なのか本気なのか
初めて惷香は悟浄の寂しくない 本当に笑った顔を見た――








血の夜.fin

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