夢の為に/7
焦る惷香をとりあえず宥めながら、車椅子で病院の外へと散歩に出る。
街から数百メートル離れたそこは、敷地内半分程から林のようになっていた。
三蔵は近くにあるベンチの傍に車椅子を止めると、ゆっくりと惷香を車椅子からベンチへと座らせる。
三蔵は何故この女に構うのか、自分でも気づいていなかった。
彼女の踊る姿を見てからというもの、理由を付けてはこの街に出向いて会いに来ていたのは事実。
ベンチに座る惷香の横顔を見れば、どうも息苦しくなる感覚に三蔵は戸惑っていた。
"もしコイツに惚れたとしたら"と考えると、残酷な未来しか見えないからだ。
三蔵は数日後には旅に出なければならない。
三仏神の命が既に降りている。
もしこの気持ちを伝えたとしても、危険の伴う旅に彼女を連れて行く事など出来ないのだから…
「ん?何をボーッとしてんの?」
「あ?
何でもねえよ」
「ねー三蔵は携帯持たないの?」
「ンな物必要ねえだろうが」
「だってメールとかしたくならね?」
「必要性がねえな」
「だって三蔵私の状況気にならねーの?」
「……あ?
そんなの街に来れば…」
三蔵は言葉を止めた。
惷香は気づいているのだ。
三蔵が旅に出る、この街には戻らないという事、そして惷香のステージに立つ姿を見れないと言う事を…。
「携帯くらい…持てよな。
っつっても、深い意味はないから!
まぁなくても別にいいんじゃない?用事なんてないだろうし…」
「持つ。
お前だけに繋がるヤツをな」
「……は?」
「お前だけが番号知っていれば問題ないだろう。
深い意味はないんだろ?」
意地悪に笑う三蔵。
カッと顔に熱が集まる気がした
ギクシャクとする惷香を横目に、風も冷たくなって来たと病室まで送り
三蔵はそのまま携帯屋へと向かった事は誰も知らない。
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