夢の為に/6
全治1ヶ月
その間、大人しくしている訳もなく…
自分が踊る筈だったステージ
それを努力を怠っておきながらも簡単に手に入れる事が出来た女を、許せなかったのだ。
その焦りからか、傷口が再び開いては縫い、入院期間も延びてしまった。
傷が塞がって来ては無茶をし、再び傷口を広げる。
その度三蔵と悟空は呆れながらも怒る事はしなかった。
「貴様は何がしたい」
「三蔵か…
しゃーないっしょ。
傷口が勝手に開く不思議!」
「貴様の頭が不思議だ」
「あり?悟空はいないの?」
「ああ、アイツは今知り合いの家で食い物に夢中だったから置いて来た」
「ひっでェ」
ケラケラと笑う惷香は
何処か悲し気で、フッとした瞬間の表情を三蔵は見抜いていた。
「こんな部屋に籠れば気も滅入る。
出るぞ」
「は?
出るぞ って何ぞ?
私入院してる身ですけど?」
「車椅子があるだろうが。
それともまた俺に抱えられてーか?」
「は?抱え…?」
思い出してみれば、意識が朦朧とする中で
三蔵にお姫様抱っことやらをされ…
「
ぬあああ!!」
「なんだ!?」
「恥ずかしい事思い出させないで下さいましぇんか?!」
「噛むな」
「抱っこって…抱っこ…!?
hshs…じゃなくて…!」
「…落ち着け分かった」
三蔵はため息混じりに頭をかいた。
そしてベッドに近寄り、惷香の頭に手をポンッ…と置く。
「抱っこだけじゃ足りないと言う事が分かった。」
「ちちちちちげーし!!」
「テンパり過ぎだ」
「顔近いからッ…!」
「あ?
こんなもの…」
ふざけた三蔵は更に顔を近づけ
互い鼻先が当たった。
惷香の顔は先程から真っ赤になっていて、目もキョロキョロと泳ぎまくっている。
次第に瞳が潤み出したのを見て
三蔵はスッ…と離れた。
「貴様は踊る事以外はからっきしだな」
「からかうな!
仕方ないでしょ。踊る為だけに生きて来たんだから…」
俯きながらも声は小さくなって行き、照れたその仕草に三蔵は胸の奥に熱さを感じた……
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