夢の為に/3





……

………















「おや、買い物かい?」


「あ、こんにちは。
お野菜頂けますか?そうですねェ…トマトとー、レタス。それとー…」















買い物を済ませた八戒は帰り道をのんびりと戻る。
その道中、いきなり店から人が出てきて八戒にぶつかった。

出てきた、と言うよりも追い出された様子で…















「ふざけんじゃないわよ!!」


「は…ァ?
いきなり何すんだっつーの」


「何でアンタが選ばれる訳!?
実力も経験もアタシのが上なのに、どうせオーナーに媚売ったんでしょ!?
下品なのよ!だから貧乏人は嫌いなのよねッ!」


「マジで意味わかんねーんだっつーの。
ったく…イタタ…あ。」















尻餅を付きながら見上げた先には、惷香を見下ろした八戒…












「えっ…と?
大丈夫ですか?」


「あー…さーせん。
ぶつかったみたいだね…」


「人の話聞きなさいよ!!
話はまだ終わってないのよ!?」


「ギャンギャンうっさいんですけど。」















低い声で惷香を押した女を睨みあげた。
ゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐ女を見据える。















「私は確かに実力もないし経験もない。
けど汚い真似をして踊りたいなんて思ってない。
文句があるなら努力を怠った自分に言えばいーだろ!」


「ッ…!!
こンの…!」















相手の女は顔を赤らめて右手を振り上げた。
惷香は咄嗟に目をギュッ…と瞑るが、頬には痛みが来なくてソッ…と目を開けた















「いけませんねェ。
詳しい事情は分かりませんが、貴女の負けなのはご自分でも分かっているのではありませんか?」

「くッ!
離してよ!」















女の振り上げた手首を八戒が掴んでいて、女は手を無理矢理振り解くと惷香を睨む。














「これで済んだと思わないでよね!」















女はそのまま店へと入って行った。
惷香は女から八戒へと視線を向けると、八戒も気がついたかのように視線が合った。














「すみません。
余計な事をしてしまったようですね」


「余計っつーか、お節介」


「あははははーですよね」


「でもお礼は言うよ。
あざーす」















八戒はいつもの笑顔を向ける。
だが、フッと気がつけば周りにも人が集まっている状態。
このままここにいても注目を浴びるだけと思い、いつもの河原へと移動した。















「何かすまんね。
巻き込んじゃって」


「いいえ。それより怪我はないですか?」


「怪我?ああ…ヘーキ。
あの人も私も踊り子なんだけど、あの人店の1番の踊り子さんでさ。
だけど次のステージで私が選ばれたからおかしいんじゃないかって言って来たってだけ」


「ああ。
やっかみ と言うヤツですね」


「ハッキリ言うね。
まぁ実際そうだろうけど、選ばれた人選に納得出来ないンしょ」


「大変、ですね」


「いんや?
だって好きでしてる事だし」















ハッキリと答える惷香に八戒は一瞬目を丸めたが、即座にいつもの笑みを零した















「強いんですね」


「強いんじゃないって。
自分の好きな事をしてるだけだから、真っ直ぐに進んでるだけっつー感じ」


「夢、叶うといいですね」


「ありがと。
メガネ君も頑張って」















そう言うと、惷香は八戒の前から立ち去った。
名も名乗らないままで…










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