夢の為に/1
――ピピピピピッ
突然、旅を続けている三蔵一行に電子音が鳴り響いたのだ。
不思議に思う皆は互いを見やる。
だが、互いに
『俺じゃない』とばかりに両手を振ったのだが、最終的に向いた視線は三蔵。
「おい。今のって…」
「メールだ」
「は!?メールって何よ。
オメーいつの間にケータイなんて持ってたんだっーの!」
「あ?
何でテメー等に一々報告する必要性がある」
「まぁいいではありませんか。
所で誰からなのですか?」
「惷香だ」
三蔵にメールを送った相手
それは惷香だった。
彼女は三蔵が旅に出る前に知り合った口の悪い踊り子を目指す女の子。
当時三蔵は悟空と住んでいて、偶然近くの街…八戒と悟浄の住む街で踊り子として励んでいたのを悟空と出会った。
…
……………
「おい悟空。
いい加減に戻るぞ」
「三蔵もーちょっと!
だってさーあそこ(慶雲院)から早々出れないんだぜ?
おっもしれーじゃん!」
「いい加減に…」
頭を掻きながら、三蔵は深いため息交じりに視線を悟空からずらした。
その時、近くの河原で踊る女を見たのだった。
夜の帳の中
街明かりだけに照らされたその女に、三蔵は言葉を飲む。
「ん?三蔵?
何かうまそーなのあった?」
悟空は三蔵の向ける視線の先を見れば、そこには汗をかきながらも一心不乱に踊る女の人がいた。
その姿は悟空が見てもクギ付けになる程に綺麗にみえた。
汗が街の灯りに光って、目標の為に踊るそれに、2人は目を奪われた。
「……何見てんの?」
ピタリと止んだ踊り。
そして放たれた言葉に2人はハッとなった。
「こんなところで何をしている」
「見て分かんないの?
はいマジバカ乙。」
「うっわ!口わっる!!」
「はァ?女が全て綺麗な言葉を羅列するとは思うなよ?」
「どうやら邪魔をしたようだな。
行くぞ悟空」
「邪魔なんて言ってないから。
アンタその服…三蔵法師?」
「…人違いだ」
「おい三蔵!!」
「チッ」
「ふ〜ん?この街の近くにいるってホントだったんだ。
初めて知ったわ」
「知った所でどうにもならんだろうが」
「そうだねー。損得も何もないと思うけど…」
「思うけど、何だ」
「思ってたよりイケメンで驚いた」
汗を拭きながら笑う彼女に、三蔵はそれ以上の言葉が出なかった。
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