大切なもの/壱
「ふぅ………」
焔の居城―――
たった1人で謁見の間の玉座に座し、肘を付いて深いため息を吐いた
「惷香…」
愛する人の名を囁けば
胸の奥がじんわり…と熱くなった
焔が天界から、やっとの思いで人間界に降りた焔
目的は新天地の創造…
そして
愛する惷香を手に入れる事にある。
だが人間界に降りた焔が見たものは、三蔵達の中で屈託もなく微笑む惷香だった―――
「必ず迎えに行く…」
焔は目を細め
手首に枷せられた鎖を見詰めた
…
……
………
『ねぇ焔
いつか…いつか貴方が闘神から解放されたら…』
『そうなれば惷香…
お前だけを見つめ、考え、毎日互いだけを想い沿おう。』
『焔…
貴方を、貴方だけを愛している。』
『惷香
愛している…。』天界で愛した惷香は
天帝の怒りから1人、人間界へと落とされた…
やっと後を追えたのは
愛し合っていた刻から既に500年も経過していた――
人間界にいた惷香は三蔵一行として西へと旅をしていて、焔は未だに惷香の前に顔を出した事はない。
天界の記憶のない金禪…
もし惷香も金禪同様に記憶がなく
『貴方誰?』
などと言われたら…
そんな恐怖から焔は惷香に会う事が出来ない…
いっそ
嫌いになれたなら、孫悟空を捕まえ、経文を強奪すればいいだけなのに…
「焔。」
そんな頭を悩ませる焔の前に紫鴛が姿を現した
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