金木犀/壱
秋になって最近一気に寒く感じる。
金木犀も匂って来て
本当なら窓全開にして花の香りを楽しみたい。
だけど
「寒い。
窓を閉めやがれ。」
その1言には逆らえない
三蔵は執務室で書類に目を通しながら、眉間の皺を深める毎日。
そんな三蔵の傍で雑用を手伝いながら、惷香は同じ空間を共有出来るだけでも幸せだった。
「何だ。」
「三蔵様
秋空が綺麗ですよ。
金木犀がいい香りがします
折角ですから…」
窓の前で惷香は三蔵に振り返った
三蔵は変わらず足を組み
肘は机に着いて、不機嫌さを露にしたままで口だけで返事…
と言うか、ふ…とした返事を『あ゛?』とだけ返した。
「何でも…ないです。」
惷香は窓を両手で閉めるように押さえたまま、言葉だけを返した。
「金木犀…?」
「あ、はい
橙色の小さな花が咲く…」
三蔵の問いに惷香は振り返って返事を返したのだが、言葉を飲んだ
理由は簡単
目の前に三蔵が立っていて
三蔵の右手は窓に付き
惷香を塞ぐように立っていたからだ
「三蔵…さ…」
惷香の前には長い影
三蔵はそのまま惷香に口付けをする
離された唇は熱く
目を開ければ、零れる三蔵の微笑…
「お前の匂いの方が俺の好みだ
だから窓を開ける必要はない。分かるな?」
「分か…」
返事もままならないまま
再び塞がれた唇。
金木犀の香りは
男には分からない…
そんな秋の1日。
金木犀.fin
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