我儘・七
三蔵達がやって来て既に8日が経過した夜
いつもの様に惷香は虫除けにと柑橘類の香を焚く
そんな姿を三蔵はボンヤリと見つめるだけだった
炎にユラユラと惷香の顔が緋色に染められ
切なそうな哀しそうな顔で
惷香は炎を灯す
「最後を迎えるまでの10日
玄奘様と出逢えて良かったと…
今は思っております」
静かに惷香は視線を炎に向けたまま三蔵に言う
「何故だ」
「一人では…いたくなかったのはありますから
私がいた
と言う事を知る人間が
果たしてこの世に何人いるのでしょう…」
惷香はまた膝の辺りの袴をギュッ…と握った
三蔵は小さく小さく震える惷香を抱き寄せた…
「げ…玄奘様?」
「生きればいい」
「そ、そうは参りませんっ!」
「何故だ
お前は自分を生け贄にしてまで何を救うと言うんだお前の生きる価値は生け贄だけじゃないだろうが!」
「ッ…!!」
三蔵の法衣から香るタバコの香りと虫除けの柑橘類の香りが混じる
惷香は三蔵の背中と腰に手を回した
「少し…こうしてて下さい…」
鼻を啜る音と共に虫の音に消されそうな小さな声で
惷香は呟き三蔵はただ黙って
惷香を守るかの様に抱き締めた
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