我儘・五
風が吹けば壁が無いと感じる程建物の内部まで風は流れ
雨が降れば雨に濡れない場所を探す方が困難な建物で
三蔵は3日目の夜を迎えた
悟空を気遣い惷香はテントを庭に張り
そこで生活をしていたが
ハッキリ言えばテントの方が居心地も良い程
建物は風化し過ぎていた
「この寺は資金がないのか」
三蔵は居間でキョロっと見渡し
惷香に尋ねた
「いいえ?
ですが我が寺は質素倹約
捧げる物は身1つ
身の周りの物などに信仰者の大切な銭を使う訳には参りませんから」
惷香は虫除けにと柑橘類の香をフワリと焚き始めた
「お前はまだ若い…
なのに何故生け贄になる事を受け入れられる」
三蔵は香のユラリと揺れる灯をボンヤリと見つめた
「玄奘様は玄奘様になるのを受け入れたのと同じ理由だと思います…」
惷香は灯がユラリと揺れるのを消えない様に手で覆った
「運命なのです」
香の灯に照らされた惷香の瞳が真っ直ぐに三蔵を捕らえた
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