百拾六
不思議な思いのまま惷香は八戒の部屋を出ると真正面の窓から
悟浄と悟空が外で雪合戦しているのが見えた
ぼんやりと2人の遊ぶ姿を見ていると
前世の記憶と重なった
『ケン兄ちゃん
また俺をバカ猿って言ったー』
『バカにバカって言って何が悪い』
『クスクス
捲簾も悟空も仲良しですねぇ』
『仲良くねぇ!』
『てめぇら仕事中なんだよ!
静かにしやがれ!』
もう戻らないあの時間は記憶で惷香の中で生きている
けど自分だけあの記憶に囚われたまま想いは凍結したままで
自分だけあの時間を覚えている
孤独感だけが取り巻く――
そこに後ろから聞き慣れた声がした
「アホかあいつら」
振り向くと壁に寄りかかり腕を組む三蔵が立っていた
「こんっ…さ、三蔵」
意識が急に戻され一瞬混乱した
三蔵は視線を惷香に移すとゆっくりと近づいた
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