「イテテ…」
体が痛むのに目を覚ます。
どうやら明王くんに添い寝していたら、そのまま眠りに入ってしまっていたらしい。
変な体勢のまま寝ていたので腰が痛い。
床に寝そべって、再び眠りについた。


床の冷たさで、朝6時に目が覚めた。
あまりよく眠れていない。
二度寝してもどうせ次に起きるのはお昼頃だろうと思い、顔を洗う。

そして、きっとすぐに起きるであろう明王くんのために朝ごはんを作る。

案の定、明王くんはむくりと小さな体を起き上がらせた。
「おはよ」
言うと、先に起きていた私に寝ぼけたままの明王くんが、「今日は雨が降るぞ」と寝起きの声で言った。
「失礼な」
そうこうしているうちに、すぐに朝ごはんができる。
朝ごはんは適当にできるので楽だ。

朝ごはんも早々に食べ終わったところで、私は明王くんにこんなことを提案してみた。

「今日はでかけてみない?」
言ってみると明王くんはそうだなあと寝転がる。
「牛になっちゃうぞー」
「まあ、見られても俺とは思われねーだろ」
牛になっちゃうぞはスルー。

とりあえず、今のコメントから察するにでかけるということでいいらしい。

早速着替えてお出掛けの準備。
いつもの河原にでも行こう。

明王くんは、サッカーボールをもっててちてち走る。
可愛いわ。サッカーボールがめっちゃ大きく見える。


途中から明王くんは、疲れてきたのか休みをとるようになった。
サッカーボールを持ってあげるとまた歩くようになった。
「もう少しでつくからがんばれ」
てちてち、可愛い足音がひびく。


少し歩けばいつもの河原が見えてきた。

なんだか、少しの間こなかっただけで懐かしく思ってしまう。
明王くんが私より先に行って一生懸命階段を下っていく。
「おせーよ。」
階段を下り終わり、まだ階段を降りている私に声を投げた明王くんの瞳は先程より輝いているように見える。
「ごめんごめん。」
言って、私も下り終わると、明王くんの足元にサッカーボールをころろんと転がす。
明王くんは瞳の輝きを一層強くさせてボールを蹴り始める。
私はいつものように階段に腰をかけてボールを蹴り駆ける明王くんを眺める。
春の暖かい風が頬を撫でて、それが気持ちよくてまぶたを閉じた。
しばらくすると、足元にコツんと何か当たった。
はっと目を開けると目の前に明王くんが。
「何寝てんだよ」
「寝てないよ」
私の足に当たったのはサッカーボールだった。
「これて良かったね」
笑うと、明王くんは別に、とだけ返しながらそっぽを向く。
でも、明王くん嬉しそうだよ。
明王くんは疲れたのか、私の横にちょこんと座った。
「もういいの?」
「…なんか、この体だとやっぱやり辛いわ」
と、しかめっ面で言った。
ま、そうだよね。
「じゃ、まだ駄弁ってますか。」
この河原に明王くんと遊びに来た時に一番楽しい時間。
明王くんのサッカーをやってる姿を見てるときは落ち着く時間。
駄弁ってる時間は、明王くんとゆっくりたくさんしゃべれる時間。
明王くんは、しょうがねえなと得意げに笑う。
また穏やかな春風がふく。
明王くんもさっきの私みたいにまぶたを閉じた。

「寝るの?寝るの?」
茶化すと明王くんはうるせえ、とボールを軽く私にボールを蹴って当てる。
どうやら、本当にうとうとしているらしい。
子供はお昼寝するイメージだしね。
「気持ちいいねえ」
再びふく春風にまた私もまぶたを閉じた。
暖かい陽射しに、眠たくなる気持ちもわかった。
明王くんを見ると眠気でこくりこくりと首を上下させている。
しばらくすると、明王くんは眠りに入ったようで背中を丸めて寝始めた。
体制がキツそうなので上半身を私のももに傾かせた。
綺麗なお姉さんじゃなくて悪いね。
そうからかってやりながら、まぶしいのではないかと思いハンドタオルを軽く頭から目元にかけてかけてやる。
小さい体を見つめながら、中学生の彼の姿を思い浮かべた。
あそこでボールを蹴っていた明王くん。
さっきの明王くんではない。中学生の明王くん。
背も大きい方じゃない明王くんだけど、やっぱりボールを追う明王くんの姿は凛々しくてかっこよかった。

その後、疲れると明王くんは私の所に戻ってきてそれから何時間も話をする。
明王くんの汗の匂いが心地よくて気持ちも落ち着いた。

私は自分の膝元で眠っている明王くんを見つめて彼に聞こえない、声になっているかもわからないほど小さな声で言った。
「いつ戻ってくれるの…?」

なんだか、中学生姿の明王くんの意地悪な顔を思い出して寂しくなってしまった。
戻らないと決まったわけではないんだし、と自分の気持ちを修正する。

その時、
「あれー!名前じゃん!」
振り向くと
「木暮君」
がいた。木暮君は、今お菓子買いに行ってたんだと言いながら階段を下ってきた。
「これから帰るんだけど…って…!!??」

下りてくるなり、私の膝元で眠っている明王くんを見て飛び上がった木暮君。
私はなんて言っていいかわからず、ええとそのと考えていると
「え、なんで効いてるんだよ…???」
と、冷や汗をにじませる木暮君。
私は、ん??と彼の言葉に疑問を投げる。
「ん…?」
そこで明王くんも目を覚まして、木暮君を見ると私と同じようにどう言おうか考えていると、木暮君が
「不動…その、あの…」
私と明王くんは首を傾げた。なぜ、そっくりとは言え明王くんとわかったのか。

「俺の持ってた漢方薬のせいで…」
私と明王くんはさらに首を傾げた。







「はぁああ!??漢方薬ぅ!?」
木暮君の話によると、円堂くん宅の集まりの際、木暮君は明王くんのジュースに隙を見て漢方薬を入れたという。
いつもの木暮君のイタズラだ。
だが、その漢方薬が、なんと人を十歳ほど若返らせてしまうという秘伝?の漢方薬だったらしい。
木暮君はそれをどこからか入手し、今回の事件に発展したとのこと。
木暮君は漢方薬の効果を信じていなかったらしい。

明王くんは、そう言えばなんか一杯だけ変な味のジュースがあったような、と眉間にしわを寄せたを
木暮君は険しい表情になっていく明王くんを見て慌てて弁解する。
「ほんとにこんな目に合わせるつもりじゃなかったんだよ!あの漢方薬肌が綺麗になったりするくらいで、そこまで若返ったなんて話たまにしか聞いたことなかったし…!」
それでも、やはりそんなトンデモ事態が起こる確率があることはわかっていたじゃないか。
わなわなと体を震わせる明王くんをよそに、私が一番気になっていたことを聞いてみた。
「で、明王くんは元に戻れるの?」
詰め寄ると木暮君は、
「うん、それだけ急な効果があったときは、元に戻るって聞いたよ」
肌が綺麗になったり、2、3歳若返ったくらいの効き目なら一度の服用でも効き目が長く続くらしいが、明王くんのように大きな変化があったときは元に戻るという。
私は、その漢方薬将来のために最低5回分くらい欲しいとおもった。
「そ、それで、どのくらいかかるの?」

私が一層詰め寄ると、木暮君は
「長くて7日かかると思う。」
そう言うと、悪かったよ許してよと言いながら逃げて行った。

ぽかんとする私と明王くん。

「とりあえず戻るならいいけどよ…」
明王くんははあ、と疲れきったように大きなため息をこぼした。

良かった。
私は安心して、膝を抱えて
「良かった、良かった…」
そんな私を、今度は明王くんがなでなでした。








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