「士郎。」
僕は名前を呼ばれるのが好きだ。


「士郎。」
なまえちゃんに呼ばれるのが好きだ。

「士郎ってば。無視?」
なまえちゃんが呼ぶ僕の名前が好きだ。


「聞こえてるよ。」
微笑み、なまえちゃんを見る。
僕はわざと反応を遅くするんだ。

「だったら返事してよ。」
ちょっと怒った彼女は僕に水の入ったペットボトルを渡す。

「ごめんね。」
僕が笑うと彼女はまいっかと、笑って他の選手の元へ。

「これは豪炎寺、鬼道くん、基山、栗松くん、不動、小暮くん…と。」
彼女は僕以外の男の子の名前を呼ぶことはない。


「士郎、後半も頑張ってね。」
にかっと笑いかける彼女。
僕も歯を見せて笑い返した。







最初なまえちゃんは僕のことも名字で呼んでいた。

けど、



「へえ、そのアツヤくんが吹雪の中にいるんだ…。」
彼女はしばらくうーんと考えると、
「でも、吹雪は吹雪だもんね。」


「……え?」
彼女の呼ぶ"吹雪"は僕の"吹雪"。みんなの呼ぶ"吹雪"も僕の"吹雪"

だけど

わからなくなってた僕。

そんな僕になまえちゃんは

「じゃあ、吹雪のことは士郎て呼んだ方がわかりやすいね!」
アツヤを認めた時、なまえちゃんは僕の存在をも認めてくれた。



僕はあの日からなまえちゃんをただのマネージャーとしてだけでは見れなくなった。




胸があったかくなるんだ。





「士郎くんおはようっ」
「あぁ、おはよう」
女の子の友達はたくさんいる。
みんな面白かったり、優しかったり、楽しいし、
なまえちゃんと同じように僕の名前を呼んでくれるけれど

「士郎くんは明日もサッカーかー。頑張って!」
なまえちゃんが僕の名前を呼んでくれるようになった時から、
できれば他の女の子たちからには僕の名前を言ってほしくないな、なんておかしなことを考える。


「あ、士郎おはよう」
校門でなまえちゃんが声をかけてくる。
僕もなまえちゃんの名前を呼んでみたい。
"ちゃん"なんて無しに…。

なまえ…


頭の中で言うだけで緊張する。
「なまえちゃんおはよう。」
やっぱりうまくいかない。
なまえちゃんはいつものように、にかっと笑った。

他の女の子たちと違うこの気持ちはなんなんだろう?


他の女の子たちも楽しいし面白いけど、


「そういや士郎さ、昨日」

他愛ない話。

なまえちゃんが相手だというだけで何かが違う。

癒されるし、心がウキウキする。

ただ横を歩いているだけなのに。





なまえちゃんに聞いてみたらわかるだろうか…。

















その日の夕方。

なまえちゃんのクラスを通りかかる。

と、


「はははっ」
なまえちゃんの笑い声だ。
きっと涙を浮かべてお腹をかかえて笑っているんだ。

一緒にグラウンドまで行こうと、教室の戸に手をかけようとすると、



「なまえってマジで大笑いだよなあー」
クラスの男子生徒みたいだ。

いや、そんなことより

「なまえの笑い声うるせえ」
笑いながら言う。
「じゃあ最初からそんな笑わすことないじゃん。」

なまえちゃんは人気者だ。
男子にも女子にも好かれやすい。



なまえちゃんは僕以外の男の子の名前を呼んだ所は見たことない。

でも、

なまえ


簡単に呼べる男子生徒をちょっと恨んだ。



「でさ、なまえ…今日も部活…?」

「っ…」
なまえちゃんより僕が反応した。と思う。

「?」

「今日このあと遊べねえ?」


嫌だ。

すぐにその言葉が僕の中で連呼された。

ダメだ。



そう思った瞬間、

「なまえ…!」


教室の扉を開けていた。



いや、そうじゃなくて



「士郎…」


彼女の名前を呼んでいた。





彼女は、


なまえちゃんは、

なまえは





「士郎。」

少し微を染め、にかっと笑った。
そして男子生徒に手を振り
「今日も無理そう。」


僕の元に走ってきた。

ああ、わかったよこの気持ちがなんなのか






「…なまえ」
にかっと笑った。

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