高校三年生です。
そしてただいま三月です。
卒業します。
今家庭研修中です。

卒業式予行だのなんだのまで学校に行くことはないのです。
私は高校サッカーのマネージャーしていて、引退までろくに休みもなかったし、引退したとしてもすぐに受験のための勉強で普通の高校生よりは休みもなかったと思う。
だから家庭研修になった時は思い切りぐうたらして遊ぼうと思っていたのだけれど、案外暇なものだ。
ベッドに寝転がっていると、
「よお」
隣に住んでる奴がいきなり部屋に入ってきた。
「ねえ、本当毎回言うけどさあ…ノックくらいしれくれないかね」
南沢篤志。何かと用もないのにうちにくるのだ。
そんな奴でも結構あたしの中で想い人だったりする。
中学校が途中まで一緒だったけど、内申書のために他の学校に転校できちゃうくらい軽い男。と思っている。
高校もレベル高いところ行っちゃって、そんなに大切なのだろうか?
「篤志進路どこにしたの?」
篤志はさっさと持参してきたお菓子を広げてベッドによりかかる。
お菓子はありがたい。あたしも篤志の持ってきたお菓子に手を出す。
「大学。」
とだけ答える篤志。こいつ自分からうちに来る癖にいつもそっけないのだ。
まあ、元々あんまり熱のない奴ではあるけど。
「お前進路どこにしたの」
あたしの話になるとこいつはあたしに向く。
顔が近いけど今更気にしない。篤志の顔やっぱ綺麗だなってだけ。
「あたし看護学校。動くの好きかなーと思って。」
「ああ、お前マネージャーとかずっとやってたもんな。」
篤志は言って微かに微笑む。
本当に微量に感じ取れるほど。
「体だけは壊すなよ」
言ってお菓子と一緒に買ってきたのであろう雑誌を手に取り開く篤志。
もう相手してくれないのか。もっと話そうや。
「篤志って、将来なにやりたいの?」
うなじに問うと篤志は聞いてるのか聞いてないのかわからないが、あーとだけ言って
「医者?」
と、答えた。
多分違うんだろうな。篤志がやりたいことってなんだろう。
聞いても篤志は教えてくれないんだろうな。

そんな会話も途切れたのであたしは違う会話を振る。
「篤志どっかいった?」
「別に。大してどこもいかねえよ。」
なんだ。つまんないやつ。友達いないこともないのに。
ああ、でもこいつは結構割り切ってるところあるしなあ。
そう思ったらなんだか悲しくなってきた。
「あたしもただの隣に住む人間なのか」
片想いでも、せめて仲の良い友達か、幼なじみくらいのレベルにはいたいのに。
なんか急に虚しくなってきたあたしに篤志がめんどくさそうに振り向く。
「なんだそれ」
「聞き流せよ」
「そんな顔してそんな言葉言って聞き流せはないだろ」
呆れたように言う篤志。めんどくさくて悪かったよ。でもこれが女ってもんなんだ。
そんなあたしからまた視線を雑誌に向けた篤志。
その時
「俺三月いっぱいで家出るんだよ。」
つぶやいた。
「え…」
なんだそれ。
「もういい年だし、バイトしながら自分で自分のことやるようにしていく。」
いきなりの話の展開で、置いて行かれる。
「篤志お隣じゃなくなるの…?」
ああ。篤志が雑誌のページを一枚めくる。
やだ。
だってずっと昔から好きだったのに。
別にどうこうなりたいって願ったわけでもない、
ただ今みたいに約束もなしに会える関係が幸せだったのに。
なんで離れていこうとするんだ。

離れていくということがわかると一気に欲が出る。
急に篤志とどうこうなりたい、どうこうしたいという気持ちが出てくるのに焦りを感じた。
「あんまり帰ってこなくなるの?」
「親に頼ると心配させるだろ。」
それはそうだけど
あたしの顔見に来てくれないの?

言えなくて。鼻がつんとした。
篤志があたしのこと好きかとか友達かとか、幼なじみかとか
考えるのさえ馬鹿らしくなった。
もうきっと部屋もとっくに契約してるんだ。
昔からずっと一緒に居たのに、あっさり離れていけるんだ。
依存していたのはあたしだけだったんだ。

行かないでよ、なんて言えるわけなくて。
篤志の
やりたいことなら応援するなんて可愛いことも言えなくて。
何も言えなくてただ黙っていた。

そんなあたしに

「お前はどうすんの」
と聞いてきた。

どうするって、何故いまあたしの話に戻ったのか30行以内で述べよとか意地悪してもきっと頭の良い篤志は意地悪でぴったし30行以内で答えそう。
てゆうかさっき看護学校行くって話したじゃないすか。
もう忘れられてて腹立ってきた。
「だから、看護学校に行くんだってば」
喧嘩口調で言うと、篤志は呆れた顔をする。
「は?」
「は?」
は?ってなんだ、話が見えない。
篤志のさっき言った”どうする”ってなんのどうするだ。



どうする



え、




「お前俺んとこについてくかってことだけど」
もしやと思った時には篤志の顔が目の前にある。
いつもは慣れでどきどきとかしないのに。
小さな変化に胸が高鳴った。
「え、」
それはそのまんまの意味ですか。
聞いてみれば、他にどういう解釈があるんだよとくる。
「俺、一応お前のこと好きだったんだけど。」
普通の顔して言う。
もう知ってるだろみたいな顔して言う。
「うそ…」
なんだか嬉しくて涙出た。
「うそじゃねえよ」
嬉しくて涙って本当に出るんだって初めて知った。
「あたしもずっと好きだった。」
知ってただろ、言うと知ってただと。
もっと早く言ってくれればよかったのに、
思ったけど、きっと篤志も大して欲が出なかったんだろうな。

だって暇な日あればこうやってお菓子持ってきたし、
お互い好きな人ができたとか話さなかったし。

「きすしていいっすか」
言うと篤志はいいぜと微笑んだ。
目を閉じてほっぺにきすすると、篤志は呆れる。

「お前普通口と口だろ」
「そんないきなりハードル高いことできるか」
「お前そんなこと言ったら二人暮らし始める時大変だろ」
「もうそんな話をするか」
言うと、篤志はぷっと吹き出して笑った。
「めんどくせえ」
「それが女の子ですから」
言うと、一瞬のきす。
くちとくちのキス。
至近距離にあったその顔はいつも通り綺麗な顔で、安心した。

四月から新生活です。


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