「お疲れ倉間」
「ゥスッ…」
言われてドリンクを受け取る。
なまえ先輩。言っちゃえば俺の片思いの相手。
柄じゃないと思うかもしれないけど、俺にも恋心とかちゃんとあるんだよ。
だけど全然振り向いてくれる気配はない。
諦めるとは違うけど、なんかもう手届かないんだなあとか思わされてきて、だからって嫌いになれるわけなくて。

まぁ、その原因は俺が先輩に惚れる前から知ってたこと。
南沢篤志。
そう。南沢さん。あの人だよ。
先輩は南沢さんしか見えてないんだって、最近改めておもいしらされた。
内申書だののためにあっさり他校に行っちまったあんな奴を先輩はまだ想ってる。


部活終わりに先輩が、マネージャーの仕事今日は早く終わったからと言って一緒に帰ろうと誘われた。
自販機に立ち寄り、ジュースおごってくれるというのでお言葉に甘えた。
「なんかさあ、最近倉間元気ないなぁと思ってさあ。」
と、先輩がいきなりそんなことを言い始めた。
「なんすかそれ。俺のこと気になってるんすか」
俺は苦笑いする。
「そうかも」なんて笑ってるあんたはひどい人だよ。
そんなこと思ってもないのに。と、ちょっと拗ねてみた。
「先輩こそ輝き失われましたね。」
「まだ15歳なのにもう!?」
先輩はまたふざけながらそうやって笑う。
「まあ南沢さんいなくなっちゃいましたしね」
嫌みっぽく言うと先輩は一瞬黙る。
「篤志は篤志だよ。あいつの決めたことならなんでもいんじゃん?」
拗ねたように言う先輩。
今の俺と重なった。
だから、一瞬俺をみてるようで、先輩をみていられなくなった。


今、俺が先輩に思ってること告げたら、
先輩はどんな反応するんだろうな。
少なくともこの拗ねたような顔は消せる。
一瞬でも。

少なくとも南沢さんに向いてる意識は俺に向く。
一瞬でも。

でも、その先が俺は怖かった。
いつもその先が怖くて直接言葉にはできなかった。


言って見ようか。
言って俺のせいで悩ませてしまおうか。
それがどれだけ俺にとって幸せか。
南沢さんなら笑うんだろうな。

あーあ。
言って見ようかな。


俺、なまえ先輩のこと好きなんすよねえ

と、なんかめっちゃ沈黙。何?

思ったら
「…」
固まった先輩が。
は?俺なんか言った?







は?俺今何て言った?

先輩はみるみる顔を赤くする。
と、思ったら俯いた。
やばい、なんか口にしてたっぽい。
「先輩っ…」
何を言おうとも決まってないまま先輩という単語を口にしたが、俺が何かいう前に先輩は顔をあげた。
が、その先輩の表情は思ってたよりも冷静で、
いや、なんだかかなしげで

こう言った。




「ごめん、

知ってた。」

知ってたらしいっす皆さん。
まじかよ。いや、驚くことでもないかもしれない。
だって、南沢さんのこと好きなの知ってたから、
で、南沢さんがいなくなったからチャンスだと思って結構アピールしてきてたけど、全然いつも通りだったから気づいていなかったんだとばかり。

まじかよ。


「それ知ってて、ずっと俺と仲良くしてたんすか。…性格悪いっすね。いやぁ、女って怖いっていうけどホントっすね。つか先輩までその部類だとか思わないっすよ。だって、いやまじウケますね。あははっ…」


結構ショックだったらしい。俺がなんか変になって行く。
先輩は、かなしげな表情で言った。
「うん。そう。本当に嫌な女なの。」
ごめんね、先輩はまたかなしげな表情を強くする。
この人めっちゃずるい。ずりぃよ。
「倉間わかりにくいから、確信があったわけでもないし、告白されたわけじゃないから別に断って関係断つのも何となく違う気がしてたから。」

だから、
先輩は繋いで

「今日そう言ってくれて良かったかもしれない。」
「は?」
ずりい。ずりい。ホントずりい。
「だって倉間、こんな嫌な女だと知らないままずっと過ごしたくないでしょ?」
そう言った先輩の言葉は軽そうで重かった。
自虐と俺のことを思って言ってること。
先輩は風でなびく髪を抑えながら、そういうことなの。
言った。

そうした春風の中長い沈黙。
ずるい女だけど、まだこの人といると胸が騒ぐのが虚しかった。

「南沢さんには、告白とかしないんすか?」
何故かでてきたその言葉。
先輩は困ったように笑った。
「私のことなんか女の子としてなんて見てないよ。」
今度は腹が立った。
何だよ自分ばっかり。傷つくのが怖いだけだろ。

ずりぃよ、俺はこんなにもどん底に突き落とされたのに。
「先輩も傷つけばいんすよ。」
言うと先輩はまた困ったように笑った。
だけど何も言わなかった。


「まじ、先輩馬鹿っすね」
「うるさい。」
先輩は俺の頭を小突く。いつもより痛くない。
「…まあ、本当に馬鹿だよね。」
先輩はまた困ったように笑った。


「もう傷付いてるから。」
あんたみたいに。言った。
「もうふられてるし。くだけてるし。」
先輩の困った笑顔は、何かをこらえてる笑顔に変わる。
「でも、忘れられないの。まだ好きなの。篤志が。」
俯いた拍子に光が落ちた。
なんなんだよ勝手にふざけて勝手に謝ってきて勝手に泣いて。
その名前当分聞きたくないわ。
あんたを泣かせてるやつの名前なんか。

「俺も好きっすよ」
柄にもなくそんな言葉を自分の意思で言う。
終わりがなくとも、馬鹿は馬鹿に惚れてます。


勝手に青春無駄にします。
とりあえず、俺の言葉であんたの涙が引いたことに幸せを感じた。




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