バレンタイン夢







2月。バレンタインが近い。
けど、私は彼氏とかいないしあんまり関係ないかも。
好きな人っていうか、大好きな人はいるけど。
例えば目の前にいるこの低血圧系男子。
例えばというか、まあこいつしか好きじゃないんだが。
日曜日の今日は彼と過ごす貴重な時間。ていうか学校でもいつも一緒にいるのだけど、本当に大好きなのです。怖い?
でも、告白して付き合ってもらうとか、彼氏になってもらうとか、
ちゅうしたりエッチしたりとか
別に。…いや、本当はなってほしいです。するならこの子としたいです。でも、ただこうやって毎日一緒に過ごすだけで幸せなんで。

まあ、本当に一緒に過ごすだけで、一緒の部屋でテレビみたり、お互い好きなことしたり、昼寝したりするだけなんですけど。
会話とかもあんまないし、でも会話しなくても別に落ち着くし。
そんな仲でいいです。今は。

目の前にいる、涼野風介との関係を大切にしておきます。
友達以上恋人未満ってやつでしょうか。
臆病者です、はい。



と、まあ今日もそんな日曜日です。
そしてバレンタインが間近。今年も友達以外にはチョコは用意しません。もちろん風介にも。
そんなことを考えながら雑誌を見ていると、本を読んでいる風介が急にしゃべりだす。
「そういえばなまえ。」「なんですか?」
雑誌に意識を向けたまま返す。
すると意外にも風介は
「今年はチョコ用意してくれてるの?」
チョコをくれるのかと言い出した。その言葉で私は顔を上げる。
「急に何?」
聞くと、風介はいつもの無表情な顔を少しだけ不機嫌にさせた。
「急にじゃないよ。」
何だろうこの空気。
私が返事を返せないまま黙っていると風介は
「義理でもいいからちょうだい。」
割と真面目な空気。こういう雰囲気はやっぱり苦手。
でも風介の不機嫌顔はいつもよりキリッとしていてちょっと胸が高鳴る。こんな時に本当に自分風介大好きなんだろうか。


「じゃあ風介は、買ったものと作ったものどっちがいい?」聞いてみると
「何それ、萎えた。」
と、不機嫌顔からいつもの無表情へ。

そんなところで今日のバレンタインの話はそこで終わった。


数日後、バレンタインがやってきた。一応風介には買ったものを用意してみた。
手作りは重いかなと心配だったので。

すぐに放課後はやってきた。風介の部活が終わる時間まで寒いから教室でぼーっとしていた。部活が終わるであろう時間帯に校舎入り口まで向かう。たぶん風介も向かっているだろう。
階段を下りていると玄関から人の影が伸びて見える。シルエットから風介だとわかる。
私は風介の影をみつけると少し駆け足で階段を下りる。が、すぐに風介が誰かといるというのに気付く。嫌な予感。
聞き耳を立てていると、やはり風介は女の子からチョコをもらっているようだ。しかも本命というか、告白されている。
好きでした、とかもしよかったら付き合ってくださいとか、可愛い女の子の声がかすかに聞こえた。
足が動かなくて、どうしていればいいのかわからなくて私が渡す予定のチョコをわさわさいじってみる。
やだなあ。ていうか風介友達いないのになんでこれほどもてるのだろう。
たぶんなんかオーラとかあるんだろう。いいなもてるとか。
そんなことを考えていてもやはり風介がどう答えるのか当然気になるわけで、聞き耳を立て続けていると
「あぁ…ごめん。」とだけ返すのが聞こえてきた。女の子ごめんね、今私すごく嬉しいです。
だって、嫌だもん。嫌だもん。風介が女の子と付き合うとか本当に考えたくなくて。だって、今まで見たいに一緒にいちゃダメでしょ?二人きりで日曜日に一緒に過ごすなんてずるいでしょ?

そうなの…わかった…という女の子の声が聞こえたと思ったら小さな足音が外の方に消えていった。

複雑な気持ちのまま陰に隠れていたが、

「いつまでそこにいるつもりなの」
風介の声が聞こえてきた。私に向けられた声だ。
溶けてしまっているかもしれないチョコを背中に隠して彼の前へ。
「聞こえた?」うん、うなづく。聞こえたというか聞いてた。
「…邪魔してた?」聞くと、風介は眉を微かに動かした。
「どういう意味?」聞き返されて私は彼の顔を見た。
その表情は何なの?怒ってるのか悲しいのか。その表情の奥には何を隠しているの?
なんとなくいろんなことが怖くなった。わかんなくなった。
今、何を言えばいいのか

そう考えていると

「まだ気付かないの?それとも…」「…?」
声もうまく出せなかった。

「わざとなの?」

風介の表情がとても悲しげで、心を傷つけられたような表情になった。
何?その顔。誰かに何か言われたの?誰かに傷つけられたの?
その悲しげな瞳が映す人影。
私。
風介は視線を私から外して私に背を向けた。

待って。
違う違う違う…!

「風介…!」私は風介の背中に飛び込む。どうか拒絶しないでと
風介はゆっくり振り向いた。
待って、今までの風介との関係を断ちたくない。
そう叫ぶ私がいた。
でも、私は
もう、君色に染まっていて
嫌だ。何も告げずに他の女の子に取られちゃうなんて。


「風介が好き…!」真っ赤な顔で言った。壊れてしまうなら私の手で壊したかった。
チョコは握っていたせいでなんだかぼろぼろ。でも今はこれしか渡せない。これしか持ってないもん。
「…これは私の?」
聞いてくる風介に「昨日悩んだ末選んだチョコ。」一番おいしそうで、一番風介が好きそうなチョコを選んだつもり。
「溶けてるかも」言うと、風介は無言でそれを私の手から奪うように取る。そしてそれをバッグの中に入れた。
「これはあとでゆっくり食べるよ。」
と、そのあとなんて言っていいのかわからず、俯こうとした顔に
「 」
一瞬のキス。
「…!?」
私が声を出せないでいると、風介は柔らかく微笑んで私だけにしか聞こえないように耳元で囁いた。

「  。」

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