バレンタイン夢











今日は待ちに待ったバレンタイン。聞くだけでも甘い。実に甘い。
チョコの良い匂いが漂ってきそうだ。
もちろん僕はただ女の子からのチョコを待っているんじゃない。
欲しいならいくらだってもらえるさ。まだバレンタインじゃないのに昨日だって僕にチョコをさしだしてきた子がいた。
でも、失礼だけど僕にとってはそれは”ただのチョコ”でしかないんだ。
しかも無闇に受け取っておいて変に期待させて傷つけたりとかそんなの嫌だ。

そう、僕はただのチョコを待っているんじゃない。
目の前に居る少女。なまえのチョコが欲しいんだ。
「今日は何の日でしょう?」ウキウキで声をかけてみても、「んー、節分」
そんなのとっくに過ぎたでしょ!?言っても彼女はふーん、と興味なさそう。
あんまり色恋沙汰には興味なさそうだけどさ!

「今日はバレンタインじゃないか」
ね?ね?僕が言いたいことわかるよね?彼女はずっとゲームから目を離さない。
いつもそうやって僕の相手はしてくれない。
風介や晴矢の話相手にはなるくせに…。って拗ねてみたけどやっぱり僕の相手もしてくれてたや。

でも簡単に引き下がる僕じゃない。
「ね、今日はクリスマスとおんなじくらい大切な日じゃないかい?」言ってみたけど、
「じゃあ何かちょうだいよ」
えぇー!そうくるのー?あ、逆チョコとか流行ってるって言ってたけど、それ今年もなのかな…時代遅れとか言われて笑われたくないんだけど。

ほっぺを膨らませてあからさまに不機嫌になってみせる。もうわかってるくせに。

去年だってチョコくれたじゃないか。メッセージカードに「ヒロト大好き」なんて書いてくれたじゃないか。
後で聞いたらみんなにも書いてたみたいだけど…。僕のにはちっちゃいハートもあった!たぶん僕にだけ!
彼女がふとぱこんとゲームを閉じた。
やっとか!思ったら彼女はみんながいるからと、庭へ。僕の手を引いて。
…ずるいよ。
このドキドキはどうすればいいの?

なまえのやわらかくて小さな手を少し強く握った。


そんな気持ちもみんなと走り回っていたら忘れていて、気付けばもう夕飯。
みんなで食卓を囲んで、いただきます。そしてお風呂に入った。

なまえもお風呂から上がったようで、タオルで髪を乾かしながら僕の隣に来た。
濡れた髪とほんのり赤くなってる頬が目につく。なんだか照れる。あと、なんかまたお風呂につかってるみたいに体があったかくなる。
「ねえ」なまえがふと声を投げてきた。その声にハッとしながら何?と聞いてみる。

すると彼女は
「今日ってバレンタインなんだよ」とちょっと意地悪気に言ってきた。
え、知ってるよ!ていうか今日散々聞いたじゃないか!僕は少し涙目になりながら心の中で訴えた。
「知ってるよ…」
と、言うと彼女はにかっと笑って「内緒ね?」言いながらこっそりちいさいおしゃれな箱を差し出してきた。
「買ったものだけど」彼女は少し頬を赤らめて言う。え?それはお風呂上がりとかじゃないよね?
「いらないの?」僕はただ彼女をみつめていたから彼女は少し残念そうに言ってきた。
「え!?いるよ!いります!」震える手で受け取って、隠して と耳元で言われ、さっとポケットのなかに忍ばせる。
「あ、ありがとう」お礼を言うと彼女は「買ったものだけど」さっきと同じことをまた言った。
「なまえからのものならそれだけで十分だよ」
熱いくらい赤くなってる顔を俯かせて言うと
「来年は作るからね」と照れたような声音で言われた。
少しだけ体の距離が開いた。

それは心が近づいた印のような気がする。


そんな二人の背中を見た瞳子が微笑んだ。
「おませね」

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