三年付き合ってきた男と今日別れた。
結婚も考えていた。別にケンカもそんなに多くないし、かと言ってお互い言いたいことは今までいいあってきたつもりだ。
それなのに、今日彼がいきなり別れようと言ってきたのだ。
どうして?聞いたら、自分からの愛は恋愛のそれと違うのだそうだ。
確かに悲しいし辛いけど、別に大して涙も出なかった。


でもやっぱりなんだか昨日まで思い描いていた未来がガラリと変わって、これからどうすればいいのかわからなくなった。


「だからって何で俺のとこ来るんだよ」目の前にいるモサモサ頭の男が言う。
会いたいと思ったからだ。なんてそんなことは言わず
「あんたとビール飲んでとりあえずこのモヤモヤから解放されたいと思った。」
と買ってきたビールを掲げる。「あんたの分もあるよ」言って差し出すと、たまには気利くことするじゃねえのと笑った。
「とゆうことでさ、今日まで連れ添ってきた彼と別れた哀れな女を元気付けてよ不動クン。」
と早速開けたビールを口に含み言う。元気付けるねえと相槌を打ちながらビールを受け取る。
「そもそも男がいんのに他の男んとこ遊びに行くから振られたんじゃないんですか」
と、なまえの買ってきたビールをカシュッと音を立てて開けて飲む。
かーっと言う明王になまえは
「他の男って何よ?」明王はそんななまえに呆れ顔になり、
「お前俺のこと女か何かかとでも思ってんの?」
なまえはそれを指摘され、考え込む。
「だってあんたあたしの唯一の親友だから…」
「それとこれとは違うの」
と明王はまた呆れ笑った。
「あのね、またお前をもらってくれるなんて男ができたとしても今みたいに一番に俺んとこ来る癖やめないと…」
「男に捨てられる、でしょ。」
もう聞き飽きた明王のお小言になまえは明王の言葉を先取りするように遮る。
一番に頭に思いつくのが明王なのに。なまえは明王を見ながら心の中でつぶやいた。

「いまいちなあ」
つぶやいてなまえは明王の顔をじっとみて言う。
「ぶっちゃけ気合う人なら誰でもいんだよね」
恋愛って感情がいまいちピンとこないなまえ。
好きと言われたらとりあえずOKして、気が合わなければ別れて気が合えば長続きした。
それを言うと明王は変な顔をして
「セックスとかどうしてんの?」
その話になるとなまえはビールがまずくなるからよせと眉間にしわをよせた。
あまり良い経験がないようだと明王はそれ以上を聞かないようにした。
「別に結婚しなくたって生きていけるから別にいいけど。」
と、なまえはビールを飲もうとするが、もう空のようだった。

なまえはコンビニの袋から新しく二本取り出し、うちの一本のビールをがぶ飲み。そんな様子のなまえを見て
「あなたの人生それでいいんですか。」
と明王がまた呆れ顔。
その言葉になまえは涙していた。明王はそんななまえに気づきギョッとした。
「な、何泣いてんの」
明王がなまえの頭に触れようとしたとき、
「…なの?」
「あ?」
なまえは明王の顔を見て言った。
「明王とじゃ駄目なのかな?」
なまえの言葉と涙に濡れた瞳に明王は身体を硬直させた。
「明王と一緒にいたいと思うのはいけないことなのかな?」
「なまえ…」

男と女である以上恋愛感情がわかないということは言いきれない。明王となまえはいままでそれについてお互い触れてこなかった。
お互いの恋愛事情もまともに話したことはないかもしれない。なんだか言いたくなかったのだ。

だけど、
「私は将来の旦那になる他の人と過ごすよりも、明王とこうして酒飲んで馬鹿笑いしてる時間の方が楽しいのは、いけないことなの?」
真っ赤になって泣きじゃくるなまえはまるで子供の用で。やっと明王はなまえの髪に触れる。
「別に…いけないこととか…」
なんて言っていいかわからない明王はただ目を伏せた。
「結婚したい。子供も欲しい。孫も見たい。…だけど、もう生涯ずっと1人でいい。」
子供みたいなわがままを言うなまえに明王は、はあ?と声を漏らす。
「あのな…」
そんな大人がいるから少子化が進むんですよと言ってみた。
「別に今すぐ日本が滅びるわけでもなかろうが」
と、またビールを飲むなまえ。明王は深いため息をついた。
だんだん涙はひいてきたようだ。だが、三本目のビールを開けるなまえ。
「今日は飲むねえ。彼の事好きだったんじゃないの」
たばこに火をつけながら明王。なまえはだんだん頬がほんのりしてきているが、意識はまだまだはっきりしているようだ。
「………」
だけど涙が引いたと思ったら今度はだんまりしてしまう。明王が何無言なってんのと言ってもただぼーっと酒を口にするだけだ。
「私さあ」「はい。」
「明王卒業しようかしら。」
やっと口を開いたと思ったら何言ったのこいつ、と一瞬フリーズ。だけど、それは自分がいままで言っていたことで
「卒業か…」
今日で最後にしちゃおうかななんて悲しげに言ってるなまえをみるとなんかもう馬鹿馬鹿しくて。
今まで何を大切にしてきたのかわからない。
明王はふうー…と煙草の煙をはいて十分に自分のお気に入りの煙草の匂いをなまえにつける。
最初はこいつもたばこくさいと嫌がっていたか。明王は思い出し笑いして


「じゃあ俺もカミングアウトしちゃおうかな」
笑ってまた煙草を吸ってなまえを引き寄せて煙を顔にかけてやった。さすがにそれにはむせたなまえ。
もう至近距離にあったお互いの顔。
十年以上の付き合いだけど、たぶんこんなに密着するのは初めてだ。それは今までお互い気をつけていたからだろう。

初めての至近距離にかどうかはわからないが、なまえは胸が騒いで騒いでどうすればいいのかわからなくなった。
「好きだよ。」

     は?
声になったかは微妙だが、漏れた声。

「お前の事愛してるよ。」
そんな甘い言葉こいつが言うのか。
そんな言葉を明王は言うのかなって考えていた。
そんな言葉をこいつは自分に
「何言ってんの?」
涙が出る。お互い守り続けてきた関係は十年にして今壊れようとしている。
やめてよ、言おうと思っていたが思うように声が出なくて
涙ばっかりでて、どうしようわかんない。明王の好きなたばこの匂いはとっくの昔に自分についていた。
「結婚しようよ」
なんで明王はそんな言葉を悲しげに言っているの?
なまえは涙で見えなくなってきてる明王の悲しげな表情に問うた。

「中学の時にお前に告るつもりだった日に先に他の奴に取られてさ。もう諦めちまおうと思ってもお前が俺の後ついてくるからずるずる今日まで来ちまったよ。」
なまえはそんなこと言う明王にだって彼女とかいたじゃんと声を絞り出して言うと
「他の女と付き合ったらそいつのこと好きになると思ったんだよ。あと、お前の反応見たかった。」
今でも覚えている。すごく嫌だった。でもそれは友達を取られてたと思っていたから。たぶん。
「もう本当に俺から卒業するって日が来たらお前に言おうと思ってたから。」
もう別にこの微妙な関係を守っていく必要もないのなら。その日が来たときに用意していたシナリオ。
明王は諦めてる表情で、
ダメもとで
いつもの冗談のように


「俺と結婚する?」

と聞いてきた。
どうしようどうしよう

もうとっくに答えは決まっていて、馬鹿な自分が恥ずかしくてまた涙した。
「その悲しそうな顔やめろ」
なまえが言うと明王は目を見開く。
頬を包みなまえは膝立ちになった。明王はただ固まっていた。




「明王と結婚したい。」


その言葉を明王が理解した時にはもう唇と唇が重なっていた。
きっと、十年まえから両想いだったのに。



あの日、彼氏ができたと明王に話しに言ってどんな反応か見てみたかった。普通のリアクションでなんでかすごく切なかったのを覚えてる。
きっとあの時にはすでに、ずっとずっと一緒に居た明王に恋をしていたのに、わからなくて
明王と一緒に居たいという気持ちが恋とわからなくて
ずっと特別だと思っていたのは親友だからとかじゃなくて

単純に好きだったんだと、十年にして今ようやくわかった。
明王は俺でいいのかよ?言って自嘲気味に笑った。
「明王でいいよ」なまえが笑うと明王はなまえの胸元に顔を埋めた。
「馬鹿だねえ」
なまえはこの胸の鼓動を明王に聞かせたくて胸の中に居る明王の顔を抱きしめた。
「じゃあ子作りしませんか?」
明王がくっと笑った。
「馬鹿だねえ」
嬉しくてなまえも笑った。






10年越しの告白。

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