「私が死んだら泣いてくれる?」
ふと僕の彼女がそんなことを聞いてきたから
「ついに頭もおかしくなったの?」
と聞いたら口を尖らせる彼女。
「真剣に聞いてよ」
今日は付き合ってもう長いなまえちゃんの家に遊びに来ていた。
中学生の頃からつきあっていたが、いつもはこんなこと聞いてこない。
私とサッカーどっちが大事なのとか聞いてこないだけまだましなんだけど。
「私とサッカーどっちが大事なの」
聞いてきたよ。え、なまえちゃんどうしちゃったの本当に僕のこの眉間のしわどうしてくれるの、
と僕はなまえちゃんを変な目で見ていると冗談だよと言った。
「さっきのはなんなの?」
わけがわからないよとか言おうとしたけどやめた。
「例えばさ、私がどこかの国で、乱暴な男にレイプされてその後殺されちゃったら泣いてくれる?」
だからなんなのその妄想は。嫌に生々しくてこんな子が彼女とかなんか今まで自慢げに紹介していた自分を一瞬あざ笑った。
「別に自殺するからっとか言いたいわけじゃないから安心しなっ」
と、なんか胸張ってる。
別にそんなこと一々考えて僕に聞かなくてもいいじゃないか。
なまえちゃんが他の薄汚い男にレイプされるとか考えただけで吐き気がするのに。
「馬鹿じゃないの」
と僕は慣れた手つきでなまえちゃんの部屋のテレビをつけた。
チャンネルをまわしたけどあんまり面白そうなものはやっていない。
ダビングしてあったものを見るとなまえちゃんが録画した何かのアニメがあったのでそれを見ることにした。
なまえちゃんはまた僕につっかかってきた。
「ねえ、私が死んじゃったらさ、霊感を取得したほうがいいよ!」
この子本当に何言ってるの。
「取得しようと思ってできるもんなの?」
呆れた顔で言うとなまえちゃんは
「できるんじゃない。」
とにこやかに言う彼女が恐ろしくさえ思えた。
もしかしてなまえちゃんまじで亡くなってるんじゃ…と思ってなまえちゃんの細くてでも柔らかい肩に触れた。
触れたから実体あるってことだよね。
僕はまたつけていたアニメに意識を戻す。だのに、またこの女、
「じゃあさ、明日私と同姓同名の人が亡くなったってニュースみたら心配してくれる?」
うざい。
それを表情で伝えたけど、だめだこの子。
アニメは早くもエンディングが流れてる。
僕は急な退屈さに、ふっと小さくため息。と、隣で小さくむくれているなまえちゃんに気づいた。
「なに?」
言葉を投げるとなまえちゃんは「士郎が死んだら私だったら死ぬ。」
僕はさすがに腹が痛くなった。いい加減にしなさい。
「なまえちゃんのばぁか。」
と言うとなまえちゃんは怒るでもなくただ顔を上げて。
「嘘でもいいから言って。」
僕はなまえちゃんのほっぺをぐにっとつねって
なまえちゃんなんか大嫌いなまえちゃんなんか隣にいて欲しくない。なまえちゃんなんか死んじゃえなまえちゃんが死んだって涙ひとつでないなまえちゃんなんか犬のふん踏んじゃえなまえちゃんなんかなまえちゃんなんかなまえちゃんなんか
と、言った。
「言ったよこれでいい?」
なまえはぽかんとした顔で、
一瞬ものすごく傷付いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに笑った。
「馬鹿」
と最後に僕が悪態をつくと、士郎もね、となまえちゃんは笑った。
僕はテレビに意識を戻し、次に興味を示したのは昨日見逃したドラマを見ることにした。
「士郎は素直じゃないね。」
と、なまえちゃんはぴったり横にくっついて座った。
なまえちゃんはいつも通りのなまえちゃんに戻ったようだ。
なまえちゃんの意識はすっかりドラマに向いた。
僕はというとぴったりなまえちゃんとくっついていられる心地よさにそっとなまえちゃんの肩に頭を傾けた。口だけ動かして気づかれないように告げた。
君が死んだら僕も死んじゃうよ。
もう二度とそんなこと言わないで。
ほのかに香るシャンプーの匂いに僕の身体はほっと暖かくなった。