ある時は名も知らぬ相手。


ガタンゴトン…
心地よい日差しに電車の揺れ。
ガタンゴトン…

毎朝見かける白銀の髪の彼。


彼はいつも自分の向かい側に座る。
いや、
自分がいつも彼の向かい側に座る。
話もしたことのない彼。
名前も知らなければ声さえ聞いたことはない。
性格だってわからない。
いつも一人静かに座る彼はとても魅力的に思うのだ。

それがいつからかはわからないが、自分はいつも彼を意識した。

きっとこれは恋なんだと、最近気づいた。
でも、きっとこの想いは絶対に届かない。
届けられない。
届ける術がない。

自分から声をかけるまでは。


そう叶わぬ恋と気づいた時から
もっと彼を好きになって毎日を過ごした。








ある時はクラスの違う相手。
ガヤガヤと騒がしい教室内。

自分は基山と南雲という友人のクラスに毎日昼休み顔を覗かせる。

騒がしいのは嫌いだが、この2人となら自分までもその輪のなかへ自然と入って騒いでしまうのだから不思議なものだ。だけど最近ふと視界に入ってしまう少女がいた。
いや、それがふと視界に"入れて"しまっているのだと気づいた。

その女子生徒は窓側の席で、ぼーっと空を眺めたりこの騒がしい中本を読んでいたり。

もの静かとはまた別の
暗さとか陰気な雰囲気は感じられないのはきっと彼女の容姿からだった。


名前は知っている。
みょうじなまえというらしい。
みょうじへの気持ちが何なのか自分で理解しないまま毎日を過ごした。

ある日、みょうじが友人といるのを見かけた。
あの教室では誰かと話をしている所もあまり見なくて
まず見ていても教室の騒がしさでどんな話し方をするのかも
どんな声なのかもわからなかった。

だけど、今初めてみょうじが思い切り離しているのを見て聞いて感じた。

みょうじはとても楽しそうに歯を覗かせて笑う。
なまえの声は想像してた通りの声で何故か安心をする。
みょうじは周りの女子生徒と違う何かがあって、

みょうじじゃないといけない何かが自分の中にあった。


でもそれが何なのかわからないまま時が過ぎた。
ずっと彼女が心にひっかかったまま、いつしかあの時の気持ちが恋だと気づいた時には、もう自分が婚約していた時だった。








ある時は、一生届かぬ恋。

小学校から一緒だった涼野という少年は自分の一番の友達。
でも、彼は男の子で自分は女の子。

周りの子達はみんな自分たちをからかった。

付き合ってるんだろ
恋人同士なんだろ
ラブラブだな

そんな子供の言葉が2人の仲に壁を作った。



中学に入ってクラスが一緒でも、クラスが離れても
2人は言葉を交わすことはなかった。


そんな生活が続いた。

だけど、高校生になって偶然会った2人。

長年話しをしていなかったにしては会話がはずみ楽しかった。
その時、子供の頃から感じていた気持ちが特別なものだとわかって、2人は付き合いはじめた。

あいていた溝を埋めるようにいろんな所に行ったり
話しをして
キスをして
それ以上にも行った。


そして成人を過ぎて自分の中に命を宿した。
とても嬉しくて嬉しくて
とても彼が愛おしくて愛おしくて運命に命に涙した。


そして、永遠の愛を誓った。
その1ヶ月後、

彼が交通事故で亡くなった。


とても悲しくて悲しくて
とても彼を忘れられなくて
運命を恨んだ。




生まれてきた彼との間にできた子供は
眉と髪と肌が彼に似ていた男の子だった。


この子だけを大切にして愛して守っていくと決めた。



またいつか会えるときまで…。








ある時は、片想いの恋。

元々仲の良かったなまえという女友達。
いつしか自分の中で中心的な存在になっていったなまえ。
この気持ちがどういうものかわかったのはすぐあとだった。

それは、昔から自分とも仲の良かった基山をつれて幸せそうにはにかんで


付き合うことになった

と2人で幸せそうに笑った瞬間だった。


南雲も同じようにショックだったらしい。
いつも4人で遊んだ。
だが、4人の気持ちが以前と比べてまた変わった。


無邪気に笑うなまえを眺めていた自分。
だが、すぐ隣で同じように愛おしそうにそれを見つめる基山を見て虚しくなった。


誰が先だとか
誰が一番だとか
誰が決めるとかじゃなくて


なまえが笑顔で基山を選んだ。
それが答えだった。



夜涙が出たような気がした。
それは何故だったのだろうかと考えたが、また切なくなって考えることもやめた。


ある放課後、なまえと二人きりになった。
静かで心地よくて、なまえはいつものように笑って他愛ない話しをする。

このまま頭を引き寄せてキスしてしまおうか。このまま好きだと突然言ってしまおうか。
このまま抱きしめて、基山より私にしろと言ってみようか。


そうしてこいつを困らせてしまおうか。


思ったが、基山のなまえを見つめる横顔を思い出してやめた。

なまえも大事だが
基山も同じように大切だった。


きっとこの想いはずっとこの胸の中にしまっておかなければならないのだろう。

二人は長年の時を過ごし
壁を乗り越え
結婚した。


なまえは相変わらず幸せそうに微笑んで
その隣にはなまえを愛おしそうに見つめる基山がいた。





























「………っ」
何だか悲しい夢を見た。
隣にいつもの暖かさがなく、涼野は身体を起こした。

窓辺に座る人影。

「なまえ…?」
声をかけると振り向く。
「風介」
どことなく不安げななまえの声音。

なまえはそっとベッドに潜り込み、涼野の胸に抱きつく。
なまえは震えていた。
「…不安なのか?」
なまえはふるふると首を横に振った。
「夢を見たの。」
涼野はそれを聞くと微かに反応した。
「あたし風介に出会えて今こうしていられてることがすごいことだって思った。」
「……。」
涼野は先ほどまで見ていた夢を思い出す。

「もしもの世界ってあってさ、パラレルワールドって言って色んなもしもがあればあるほど存在する世界で」

自分たちは色んな偶然、奇跡、選択をして出会えた。

ひとつでも間違っていたら、出会ってすらいなかった。

「風介、」
なまえは幸せそうに微笑んだ。


「あたし幸せだよ。」
そう言って涼野の頬に口づけした。

「私もだよ。」
涼野はそう言って、なまえを抱きしめた。


「もうそろそろ寝よう。」
涼野が言うとなまえはそうだねと頷いた。









明日はなまえと涼野の結婚式だ。

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