冬の日。

最近なまえは不動という男の子と仲良くなった。

そしてまたしばらくするとなまえは鏡を肌身離さず過ごすようになった。



「おい、人の話聞けよ」
鏡を凝視するなまえに不動が眉を潜める。

今日はなまえが不動の家に遊びに来ていた。
「え?聞いてるけど」
「そんなに自分可愛いかよ?」
ふん、と鼻で笑う不動になまえはムキになって楯突く。
「いいじゃん別に鏡みてたって」
「人が話してる時は人の顔見るって教わらなかったのかよ?」
嫌味な不動になまえはむっとした顔つきになる。
そんななまえの顔に不動はケラケラと笑って
「可愛い顔が台無しじゃねえか。なまえちゃん?」
と馬鹿にする不動になまえは鏡を閉じた。

「今日はもう帰る。」
「は?何ムキになってんだよ。」
なまえは携帯をポケットに入れて荷物を手に取る。
「おいなまえ。」
「またね」
なまえは眉間にしわを寄せたまま不動の部屋を出た。



翌日、不動はいつも通りサッカーの練習をしに雷門へ。
なまえはその雷門の生徒だった。


不動は休憩中、ふとなまえと仲の良い夏未に話しかける。
「なあ、女ってそんなに自分が可愛いもんなのかよ?」
急にそんな話をする不動に夏未は首を傾げた。
「急に何?」
「よくなまえ鏡見てるだろ。」
言う不動に夏未はまた首を傾げた。
「…彼女、そんなに鏡見てるかしら?」
と、夏未は考え込んだがすぐに表情を変えて
「えぇ、女の子ってそうゆうものよ」
と笑った。
不動はそんな夏未をみて変な顔をする。
そこで休憩が終わった。









不動が練習を終える頃、いつもなまえは校門に必ずいる。

今日もいるだろうかと、不動は少し眉間にしわを寄せながらマフラーに顔をうずめた。

なまえはいつものようにそこにいた。
小さい背中に細くて白い脚で足踏みして寒さを紛らわせていた。
「…なまえ」
不動がなまえの名を呼ぶとなまえはすぐ振り向いた。
今日はマスクをしている。

「何だお前風邪かぁ?」
とニヤリと笑うとなまえは
「違う。」
と眉間にしわを寄せる。
今日は寒い。二人は言葉なく歩き出す。

「明王」
ふとなまえが不動の名を呼んだ。
不動は、あ?とだけ返す。
白い息が上へのぼる。

「…明王って女の子好き?」
突然のそれに不動は変な顔をする。
「何言ってんだお前?」
なまえの目が不動を見る。
「あんたも可愛い女の子が好きだよね。」
目だけしか見えないが、なんだか寂しげななまえの表情。
不動は何だかモヤモヤし、また変な顔をした。

そこで不動は話をそらす。
「今日は鏡見ねえじゃねえの。」

なまえは相変わらずの表情で
「もう見ない。」

何だか低い雲。
今日はつまらなかった。
今日の二人はやけにあっさりと手を振って帰った。


不動はまたマフラーに顔をうずめて

「つまんねえ」

つぶやいた。














それから二、三日なまえはずっとマスクをしていて、
雲も低くて、
何だか元気がなくて、

つまらなかった。

つまらなくて一緒に帰るのをやめようかと意地悪なことを考えてたら、なまえが校門に立つことがなくなった。

何だか寂しかった。

そう思う自分に驚いた。


一人で帰ることが続いて3日。
不動はなまえの家に訪ねていた。
中には入ったことはなくて、
ここに来たのは今日で二回目。
不動はインターホンを鳴らす。
しばらくすると、聞き覚えのある声が
はい

とドアの向こうから聞こえてきた。

不動は
「なまえさん、いますかね。」
と、声をだすと
クスッとドアの向こうから笑い声。
その瞬間、ドアが開かれた。
「感じ悪すぎ。」
力なく笑うなまえが。
なまえは家着で、マスクをしていた。


不動がなまえの部屋に入る。

「やっぱ風邪ひいてたんだな。」
「インフルエンザ。」
さらりと言うなまえ。
「早く帰った方がいいよ。」
となまえが笑うと、
「いつんなったらまた学校くんだよ」
それになまえは目を見開く。
「明日までは休むよ。」
体調はもう大丈夫だしと、なまえが言うと
「そんなもんはずせよ。」
不動がマスクをさす。
「うつすのやだからいーよ。」
言うなまえに不動は譲らず
「はずせよ。」

なまえはしぶしぶマスクをはずした。
だが、うつむいてベッドに腰掛けるなまえ。
「何しに来たの?」
不動はその場に立ちながら言う。
「ただしゃべりに来ただけだよ。」
「…そこ、座れば?」
髪を手櫛しながらいうなまえに不動はなまえの正面に座る。

しばらくの沈黙。

「つまんねえ。何か話せよ。」
そんな不動の投げやりな言葉になまえは
「何それ」
言って笑う。
笑うが、
手で口元を抑えながら笑っている。

不動はそんななまえに舌打ちし、
テーブルを飛び越え、
ばっとなまえの手首を掴む。
「っ…!!」
「うつんねーよ。」

なまえは一瞬硬直したあと
「別にうつすうつさないとか考えてないよ。」
顔をそらしながら言うなまえに不動はまたちっと舌打ち。
「何が気に食わねんだよ。」

その言葉にしばらく沈黙のあと


「顔」
「あ?」
なまえは真っ赤な顔を不動に向けて
「顔見せんのが恥ずかしいの!」
そう告白したなまえに不動はしばらく固まったあと
「何言ってんの?」
と涙を浮かべて笑い出す。
「何今更顔晒し恥ずかしがってんだよ!」
ゲラゲラ腹を抱える不動になまえは一層赤くなり、そして



「明王のこと好きなの。」

不動はその言葉が耳に入った瞬間動きが固まった。

「………は?」
なまえは先ほどはずしたマスクを再びつけて言った。

「もう帰ればか。」
なまえはひざかけを肩にかけてそっぽを向いた。


不動はまた何度目か、チッと舌打ちして
「何て言えばいんだよ。」
不動のそれに、なまえは は?と眉間にしわをよせる。
「何て言えばいいんだよ」
「何が言いたいの?」
不動はなまえの質問返しに、自分で考えたあと、先ほどのなまえの告白に今更顔を赤くした。
「し、知るかよ!」
なまえは顔を赤くして慌てる不動を見てふいっと窓の外の方にそっぽを向いた。
瞬間、


「明王、明王みて」
と、なまえが不動の服の袖をひき、ベッドに上がらせる。
なまえは窓の外を指差した。



「雪…」
自然と漏れた言葉。
不動はふと至近距離にあるなまえの顔を見た。
まだマスクに隠れているが、目はいつものように笑っていた。
不動は衝動的になまえを腕の中に。

「え、ちょ何っ!?」
なまえは激しい胸の鼓動を感じる。
不動はただ黙ってなまえを抱きしめた。




「可愛い」

「…は?」
鼓動のリズムが"重なる"

「そう言えばいいのかよ?」
不器用なりの不動の言葉。


なまえはクスッと笑ってマスクをはずす。
「うんっ…」

久々のなまえの笑顔に不動の鼓動が少しだけ
なまえの鼓動を上回った。



低く白い雲から雪が舞い降りる。

思春期。
君が抱くコンプレックスは
君の素敵な"特徴"。



(それがお前の目印だろ。)

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