「すーずーのっ」
「……」
今日もいつもの愛情表現。
「朝っぱらから…」
まず朝の挨拶になまえは抱きついてくる。
涼野は呆れてため息をつく。
「今日も低血圧な顔してるねー」
「…どういう意味だ。」
またため息をつきながら教室へと歩き続ける。
なまえは涼野と(一方的)に話しながらべったりくっついて涼野の横を歩く。

涼野もなまえの行動をやめさせることを諦めているし、クラスメイトたちもいつもの光景、とまったく気にしていない。

そんな二人だが、別に付き合ってるとかじゃなく、お互い数少ない親友として慕っている。
冷徹で友達の少ない涼野と
広く友達もいるが、涼野以外の親友はいないなまえ。
お互い正反対かと思えば似ているところもあるようで、
何だかんだ今日も二人は仲良くくっついている。


「あっおっはよ〜!」
なまえは教室につくとさっきまでベタベタくっついていた涼野からあっさり離れ、女の子達のグループに。

涼野は急に寂しくなった右肩に、左にかけていた鞄をかける。
そして自分の席についた頃にはなまえは今度は男子グループに行ってと、飛び回っている。


涼野はそんな渡り鳥みたいななまえをみてふっと微かに笑った。

「ただいまーっ!」

でも結局は涼野の元に帰ってくるのだ。
席は近くはないけど、必ず休み時間の終わる前までには涼野に話しかけにくる。
それを待ってる自分がいて、そんな自分にも鼻で笑った。






昼休みは屋上で、基山・南雲・涼野・なまえの4人で過ごす。
「うまそ!それくれよ」
「おい!私のタコさんウィンナーをとるなタコ!」
涼野と南雲のやりとりになまえと基山。
「せめてチューリップって言ったげて」
「それも可愛いそうじゃないかな」
笑いあう基山となまえ。

「…」

涼野はいつもそれが何故かひっかかる。
なまえはいつもこの時間は基山の隣に座るのだ。

正面で基山と笑うなまえを見て涼野は少し眉間にしわをよせた。








「ねー、今度の日曜日4人でどっか行こーよ」
寝転がるなまえがお昼ごはんでいっぱいになったお腹に手を起きながら言う。
「また遊ぶことばっかりか」
涼野の言葉になまえは
「何それ、涼野来ないの?」
「そうとは言っていない!」
反論する涼野。
「みょうじはどこ行きたいの?」
基山が言うとなまえは
「うーん…基山なんかリクエストない?南雲でも可。」
「いつものグラウンドが無難かな」
「おい、南雲でも可。ってなんだコラ。」
南雲の言葉を無視し、なまえは基山の案に乗る。
「じゃあグラウンドでまた遊ぼっか」
4人はいつもの広いグラウンドで一緒に過ごす約束をし、それぞれの教室に戻っていった。


放課後。

なまえは移動教室での授業以来まだ帰ってきていない。
涼野は放課後の教室で1人なまえを待った。

この心地良い沈黙を破る騒がしい奴らは嫌いだが、
なまえの騒がしさは不快ではない。

きっと奴はまた他の奴らとべらべらしゃべっているのだろう。

グラウンドで部活をやる生徒の遠い声と
少し夕日がかった空を飛ぶ飛行機の遠い音に耳をすませる。

自然と閉じるまぶた。


あ、


       ぱたぱた


くる。



   ガララッ


涼野はふっと目をあける。
「おまた!」
「…………。」
涼野はゆっくり振り向く。
「……え?」
「……。」
「ちょ、ちょっと突っ込んでよ」
なまえはたははと笑って涼野に言う。
「何で。何て。」
座った目でなまえを見る涼野。

なまえは少し考えて


「きっ、貴様はクレヲンしんちゃそかっ」
「貴様はクレヨ○しんちゃ○か。」
「ちょっ、わざわざ大人の事情を考慮してあたしがっ」

「なまえ。」


と、ぐだぐだなやりとりをしているとなまえの言葉を遮る声が。
その声はなまえの名を呼んだ。

涼野となまえが声の方を見る。
クラスの男子だ。

「あれ、どうしたん何だよー」
なまえがクラスの男子に向かう。
でも何だか真剣身を帯びていて、涼野は眉間にしわをよせる。

涼野は席をはずそうと立ち上がるが、男子生徒は

「涼野君にも聞いて欲しいんだ。そのままでいてくれないか。」

涼野はまた眉間にしわを寄せる。
何だこの状況は。

男子生徒は涼野の返事を待たず、単刀直入に言い放った。

「俺、なまえのこと好きなんだけど。」
少し震えた声。
なまえを真っ直ぐ見据える。

なまえは
なまえの背中は固まっていて、なまえ自体すごく驚いているようだ。

涼野も驚いたが、予想はしていた。


それなのに何故か愕然とする。
「返事は今じゃなくていい。お前が決めることだから。」
じゃあなと言って彼は教室を出た。

二人きりになった教室。

なまえがいるのに冷たく静かだ。

なまえはゆっくり振り向いた。
なまえの表情は硬く、でも夕日のせいだろうか、顔は少し赤く瞳は潤んでいて
やはり複雑そうだった。



彼が何故自分を同席させたのか涼野は理解している。

きっと、色々嫌なんだ。
なまえが自分と毎日くっついて恋人同士のようで友人だと言い張っているのが。

きっと、自分がなまえを…







「私は先に帰る。」
涼野は鞄を手に持ち、なまえの横を通り過ぎる。

「涼野…」
涼野はただ立ち止まる。
「涼野、あの…」
楽しさが混ざってない彼女の声音は何故か慣れなくて嫌だ。

「…また日曜に会おう。」
涼野はなまえの声を聞かないまま教室を出て行った。

何のために待っていたんだ。














日曜日。
このグラウンドで会うときは午後1時に待ち合わせしている4人。

いつも一番の基山に次いで涼野、なまえ、南雲が順に来るのだが今日はなまえが一番遅かった。

というか、まだ来ていない。


3人はとりあえず練習を始めたが、涼野は調子が悪く、ボーっとしていたのか
「あぶないっ」
基山の声ではっとした瞬間、頭に衝撃。
それから痛みがじわじわ湧いてくる。
「何ボーっとしてんだよ。ベンチで頭冷やしてろ」
南雲の言葉を言い返す気も起きない。
涼野は南雲の言うとおりベンチに座って濡れたタオルで頭を冷やしていた。

しばらくボーっとしているとふと狭い視界に足元が入ってきた。
なまえのスニーカー。
すぐにわかった。

「遅かったな」
自分でも驚く程声が小さい。

「てかどうしたの?」
小馬鹿にするようになまえは笑った。
そして右隣に座る。

違和感。

「あ、やっと来た」
「おせーよバカカスボケ!」
基山と南雲。
「いや、いつも一番遅い南雲に言われたかねーよアホナスタコ!」
なまえはそのまま二人のとこに走っていく。

「……。」
右肩が寂しい。


いつもはなまえがこのベンチで3人をみて茶化したり笑ったり1人で盛り上がっているが、今日は涼野がこのベンチに1人で座っている。

涼野達3人と比べたらそりゃ下手ななまえ。
だからいつもなまえは3人の中に入ろうとはしないが、誰かがいないときなどはたまに混ざってはしゃいでいる。

涼野はその中に入らないままただボーっと夕方まで3人を眺めていた。







夕方、基山と南雲は先に帰った。
涼野となまえとで二人ぽつんと長い影を作る。
まだなまえはグラウンドで1人一生懸命シュートしたりしている。

ふと目を閉じていると
なまえの足音。

右隣になまえが座った。

それに涼野は目を開ける。

「良い汗かいた。」
なまえはきっと満足げに笑っているんだろう。
「…あの男とはどうなったんだ?」
嘲笑うような自分の態度に苛ついた。
なまえは悲しそうに笑っただけだった。
「帰るか。」
その悲しげな表情のまま言った。




帰り道。
口数は少ない。

すぐ別れ道が迫ってくる。



今日はえらくつまらない。
つまらなかった。

涼野は別れ道で立ち止まると
「じゃあ、」
とだけ言う。
そして早々に背を向ける涼野に
「断った。」
涼野は思わず振り向く。

自分としたことが、胸が跳ねた。

「断った。」
再び言うなまえ。
「それだけだよ。…じゃあまたね。」
なまえはまた悲しげに笑って背を向けた。


「………。」

じゃあ

じゃあいいじゃないか。
私に抱きついたって、



単純にそう思った。

何故触れてくれない…?

一歩一歩進む。
進んでいた。




「みょうじ…!」
なまえの名を呼ぶと、なまえは涼野を振り返る。






ふわりと包み込まれた。
「…っ?」ああ、もうとっくに気づいていた。


「…すず、の。」
なまえがそっと涼野の背中に手を回す。

「あたし、…涼野が」


その先をとられたくなくて

「好きだ。」
言い、一瞬のキスをした。

涼野は軽く手を離すと、
今度はいつものようになまえから抱きつく。

ずっと待っていた愛情表現。


もう体は寂しくない。


























(え?基山の隣?いや、涼野の隣より正面がいいから。)(基山関係ねえ!!)

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