ハナイロ [ 1/5 ]

「名字。放課後当番よろしくな」
先生が名前に一言。
「あ、はい…。」
人見知りで口下手な名字名前。
友達も少なく、中学三年になったときには友達という友達はみんな違うクラスに。
挨拶する程度で休み時間特に話す友達もいない。

そんな名前にも片想いしている相手がいた。
「あ…、おはよう名字さん」
隣の席の男の子。
ちょっとやんちゃなグループだけど、名前はたまに話しかけてくれる彼にいつしか恋心を抱いていた。


が、ある日。
お昼休みが終わる鐘が鳴って、彼の友達が名前の斜め後ろの席だった。
その時まだ彼が帰って来ていないのを名前は気にしていると
「ねえねえ」
振り向くと彼の友達はニヤニヤして言った。
「名字ってあいつのこと好きなんだろ?」
その男子の隣の席である女の子もそれを聞いて
「うっそ!!やっぱり!?」
「なっわかるよな!?」
と2人して笑っていた。
名前は顔を真っ赤にして俯く。
その時
「ギリ間に合ったぁ〜!!」
と、片想い相手の彼が。
その男子が彼にニヤニヤ顔を隠さず言った。
「名字がお前のこと好きなんだって!!」
名前はその男子を信じられないという風に見る。
彼の方から困惑した声が聞こえた。
「そうなの?ごめん俺彼女いるからさ!」
と手を合わせる彼。
名前は真っ赤な顔を隠すように俯いた。
「えーっかわいそー!」
「ちょっそんなつもりなかったし!」
みんな笑ってる。
恥ずかしくて悔しくて、でも名前は何も言えなかった。
その瞬間、


ガンッ

その大きな音で一瞬にして騒がしかった教室内が静かになった。


「う"っせーな…」

静かになった教室に良く響いた声。
声ですぐにわかった。
獄寺隼人。

女子に一番人気の男の子だ。

笑っていたみんなが獄寺にごめんとつぶやく。

「何で俺に謝んだよ?」
獄寺は笑った男子に、名前に謝るんじゃないのかというような催促をした。
男子は名前に向き、ごめんと頭を下げた。
「…うん。」
名前は真っ赤な顔を俯かせたままそれだけ言った。
そしてしばらく教室内に重い雰囲気が漂ったあと、何も知らない先生が来てやっとだんだんと普通の雰囲気に戻って行った。
そして運の良いことに席替えをすることになった。
片想いした彼とは端と端で離れることができた。






放課後、
名前の当番はいわゆる"雑用係"
自己主張が弱い名前はいつも余った係をやる。
今日は先生のもとにプリントを持っていき、そして今校庭などの花に水をやっている。

名前は花に水をやる仕事は好きだった。
毎日毎日水をあげていると花にも愛着がわき、可愛く思うようになった。

少しだけど花言葉も勉強している。

名前が話に水をあげていると、獄寺が歩いてるのが見えた。

実は元々獄寺が苦手だった名前。
正に不良という見た目で、中身もそうだと思っていたが、
今日のことはちゃんと伝えたかった。

「ごっ獄寺君!」

「あ"?」
その鬼みたいに寄った眉間のシワと鋭い目つきで一瞬ひるんだが、
「きょっ…今日はありがとう!」
獄寺は名前を見て
「何がだよ?」
「み、みんなに笑われてて…すごく恥ずかしかったから…」
獄寺は俯く名前に
「あんなん笑ってる方が恥ずかしいだろ」
その言葉に名前は顔を上げる。
「…い…してた…」
「あ?」
名前は目を光らせ獄寺の顔を見つめた。
「誤解してたよ!」
「……なっ何がだよ!!」
獄寺は顔を赤くして怒鳴る。
「獄寺君て見た目からしてもっと悪い人だと思ってたの!」
名前の言葉に獄寺がムッと口を尖らせた。
「わ、悪かったな!」
獄寺がそう言うと、名前があっと声を出した。
何だと思えば
「獄寺君誕生日いつ?」
獄寺はそれを聞くと拍子抜けした表情になる。
「誕生日?何で」
「いいから」
楽しげに笑う名前を見てまた少し赤くなる獄寺。

「9月、9日…」
「今日じゃない!?おめでとう!!」
また笑顔になる名前に獄寺はドキドキしてしまった。

「…で、何なんだよ!!」
名前は笑って
「ズバリ!獄寺君の誕生花は菊!」
しばらくの沈黙のあと、
「……………………菊って…」
獄寺の落ち込みを見て名前が渇を入れる。

「お葬式とかのお花だって思ってる!?失礼ね!菊は桜に並ぶ国花なんだから!」
「そうなのかよ?」
「本気で知らなかったの…?」
「しっ知らねーよ!!」
名前はまたあっと声を出した。
「今度はなんだよ?」
そう言う獄寺に名前が花壇を見回し、そして手招きした。
「獄寺君の誕生花たぶんこれ!」
見ると、代表的な菊の花ではなく、菊だけどまあるい雰囲気の花。

「可愛いでしょ?」
「あ?あぁ………………って、えぇ!?」
気づけば自然と近い距離の2人。
名前はとくに気にしていないが、獄寺はそれに気づくととっさに距離を取った。

名前はそんな獄寺をよそに、ごめんねとつぶやいて花をひとつ摘んだ。

そして
「お誕生日おめでとう!」
微笑みその花を渡す名前。
「い、いいのかよ?」
名前は苦い顔をして
「…できれば内緒にして。」
獄寺はまた顔が熱いのを感じ、自分の誕生花を受け取った。

白くて可愛らしい花。

「確か花言葉は"真実"だったような…。間違ってるかもしれないな。」
名前は微笑みを崩さず言った。
「間違ってたら教えてね」

景色が変わった。誕生日。















その週の日曜日。
獄寺は適当に散歩に出かけていた。
ちょうど秋になりすずしくなってきた所だ。
適当にぶらぶら店を見ていると
「名字…?」
名前を見つけた獄寺。
何だか無意識に名前の元に近づいて行った。
「名字」
そんな自分の行動を獄寺は声をかけたときに気づいた。
「あ、獄寺君」
私服の彼女は、普通の女の子で、
先日話したときにも感じたが、彼女が教室で浮いてるのが嘘のようだった。

獄寺は名前と公園で話をした。
獄寺も名前も元々しゃべる方ではないのに、お互い色んなことを話した。


楽しい…。
お互いその言葉が心に染みていた。














月曜日。
「あ」
「おはよう、獄寺君」
「…おう」
名前と獄寺がはじめて朝の挨拶を交わした。
そんな2人に

「隼人おはようー」
「隼人急に名字ちゃんに接近しちゃってどうしたのお?」
クラスの女子生徒たちだ。
彼女たちは獄寺を慕っているようだ。
「ねえもしかしてさ、2人って付き合ってるの?」
その言葉に獄寺も名前も反応する。
「何だよそれ?」
「やだ隼人、本当なの?」
何だか前のような悪ふざけが名前には気持ち悪かった。
獄寺は俯く名前を見て拳を握り


「俺が名字と付き合ってちゃおかしいかよ?」


また獄寺の言葉で教室内がしん、とする。

そしてざわめき。

「は、隼人…?」

獄寺は顔を真っ赤にして名前に向き直った。

「俺はお前が好きだ。」
周りがざわめいた。女の子は涙目になる子も。

名前はびっくりし、ただ獄寺の顔しかみれなかった。

「答えはまたあとでいい…」
予鈴が鳴って獄寺は自分の席についた。

名前は状況が唐突すぎてしばらくその場を動けなかった。










放課後、名前がいつものように花に水をやっていると

「名字」
獄寺が。
名前は獄寺の顔を見れなくてただ花に水をやり続けていた。
「…あれ、その場しのぎでしょ?」
名前の言葉に獄寺が眉間のシワを深くする。
「名字にはあれがその場しのぎに聞こえたのかよ?」
「…聞こえなかったから、戸惑ってるんだよ。」
獄寺は俯き
「いいんだ。ただ一言で終わらせてくればよ。」
「…ごめんて?」
獄寺はあぁと唸るように返事をする。
名前は水をとめ、獄寺を見た。
「その一言で私たちもうこの前みたいに、ああやって話せなくなるの?」
「……。」

名前はねえっと声を張った

「何で終わらせてくれなんて言うの!?」

「は…?」
名前は獄寺の手を取った。

「戸惑ってるよ。戸惑ってるとは言ったけど、でもっ私も…獄寺君のこと好きだって言っちゃダメなの?」

ごめんの一言を待っていた獄寺。
とっさに名前を抱きしめた。

「好きだよ…!お前がっ…」
名前は獄寺の髪の良い匂いと強い腕の力に心地よさを感じた。

「私も、好きだよ…」

獄寺は名前の髪に花の良い匂いを感じ、腕から速い鼓動を名前に伝えた。




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