ある雨の降る日。 [ 3/5 ]

ある雨の降る冬。
「これでいいかぁ…?」
「いちに、さん……ええ、いいわよ。」
私は彼からそれを受け取り、すぐ手に届くテーブルにおく。

ギシッとベッドがかすかに軋む音。
「ん…またするの…?」
もうすでについている赤いキスマークのうえに再びキスするスクアーロ。
再び快楽を求めお互い身体を動かしあう。

彼とこんな曖昧な関係が出来上がったのはいつごろだろうか?

私は彼につきまとい金を受け取る雌狐。

そんな私を彼は愛して身体を金を払ってまで関係を保とうとする。

馬鹿な男。


私がただ雑談しようと会いに行っただけなのに彼は金を渡してくる。
あなたには私がそんなにげすに映ってるのかしら。失礼すぎよ。
それを言うと彼は
「じゃあ俺の正式な女にならねぇかあ?」
「正式な女って何よ。まるで私が愛人みたいじゃない。」
「金払ってる時点でおかしいだろぉ」
私はふふふと笑って
「誰も最初からお金払いなさいなんて言ってないじゃない」
そう言うと
「じゃあ俺の女になれよ」
「……」
私はワインをそっとくちに含み、
「まあいいわよ」
そう言うと、彼は鋭い歯を見せつけるように笑った。

馬鹿な男。


"正式な恋人"になったからと言って私の心は躍らないし、スクアーロとの関係も大して変化などなかった。

彼が任務に行くときだって一々心配したり見送りなんてしない。
だって私は彼のことそんなに愛してるわけじゃないわ。
彼が私のことをすごく好きだから暇つぶし。

暇つぶし。

私と彼は会う頻度が増える度、身体を重ねる回数より、他愛ないお互いの話をする時間が増えた。


ある雨の降る夜、私は彼からプロポーズされた。
指輪を差し出された。
「俺と一緒に生きてくれねぇかあ"?」
彼が怖い顔して言う。
だから

「ふふっ」
笑った。
彼は眉間のしわを緩めた。
びっくりしたのね。
「私、あなたのことそこまで愛していないわ」
彼はきっと眉間にしわを寄せて、そとに投げ捨てた。

そして、身体を求めてきた。

今日はちっとも気持ちよくない。
そう不満を心の隅で言った。



次の日私は普段通りに接すると彼もプロポーズなんてなかったみたいに、私の不真面目な対応もなかったみたいにいつも通りに接した。














ある日雨の降る朝。
私と彼の関係は相変わらず。
だったけど、スクアーロが私を呼び出した。

「今日から重要任務としてしばらく帰って来ねえ。」

「えぇ。」
彼はそっと一輪の薔薇を差し出した。
「まあ、綺麗な薔薇ね。」
そう私が微笑むと、彼は珍しく弱々しい声を発した。
「もしかしたら今日が最後かもしれねえ…」
私の心臓が跳ねた気がした。
「どうしてそんな風に思うの?」
彼はまっすぐ私を見て
「重要任務と言っただろうが、」
「いつもそうじゃないの?」
何故胸がドキドキしてるのかしら。
彼が死ぬはずないじゃない。

「あなたにしては珍しく弱々しいじゃない」
ふふふと笑ってみたけど、私笑えてたかわからない。
「もう一度言わせてくれ」
「……。」
彼は改めて一輪の薔薇を差し出した。
「俺と一生一緒に生きてくれ。」
一生がついたのね。
やっぱりあなたの真剣な顔おかしい。
「ふふっ…」
「う"っ…う"ぉおおいっ!?」
おかしい
おかしいわ
何で私の目から涙が出ているの?
「…私なんかの何がいいのよ…」
うろたえるスクアーロなんて初めてみるわ。
弱々しいスクアーロなんて初めてみたわ。
そんなスクアーロがこんなにも愛しいと初めて知ったわ。

「馬鹿な男…」
私は彼にキスをした。
私からの彼への初めてのキス。
「あなたが帰ってきたら、一生一緒に生きましょう。」
大丈夫よ。
私の口からこんな言葉が出るなんてね。

彼は私を強く抱きしめて部屋のドアを閉めた。

































ある雨の降る日。
ひとつの墓石の前にしゃがみ込む。
今日は一日疲れたわ。
ここで少し休ませて。

私は傘を閉じ、その墓石に枯れた一本の薔薇を置いた。

「あなたって本当に馬鹿な男…。」
冷たい雨が私の身体を冷やす。
左手の薬指にはめた銀の指輪が一層私の身体を冷やす。
あの日彼が捨てた指輪を私は必死で探した。
あなたには黙っていたけど。

「何故こんな中に入っているのよ…。」
墓石に問うが返事が帰ってくるはずもない。

私が先に墓石で眠り、悲しみに暮れるあなたを私は見たかったわ。
あなたに私を思って泣いて欲しかったわ。


「う"っう"ぅああ"ぁあぁああああっ!!」
喉がつぶれるように泣き叫んだ。
馬鹿な男…。

不幸せな可哀想な男…。

こんな美人と結婚できず死んだなんて…。

哀れな男…。





この腹の子供を見ずして逝くなんて。







馬鹿な男…。

そんなあなたを愛して失くした私は




なんて哀れで馬鹿な女。

そんな私とあなたのこの腹の子供はそんな馬鹿にはしてみせないわ。



まだ膨らんでいない腹をさすった。



ある雨の降る日だった。

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