06
「渚」
学校の玄関で呼び止められる。

由徳だ。そうだ遊ぶ約束していたんだった。
「今日は大丈夫なんでしょ?」
と、聞かれうんと答える。
「じゃあとりあえずお前の行きたいとこ行こうぜ」
と、手を取られる。
その時に少し嬉しさを感じられることにホッとした。

あたしは骸に惹かれてはいない。
ただ”お兄さん”としての”好き”を思い出したからだ。
綺麗だし、恰好良いし異性としても惹かれるのは特別なことでもないはずだ。
でも、やっぱりあたしは今の彼を大切にしたいし、するべきだ。

あの時頭に触れられた時の感覚もきっとただ嬉しかっただけだ。
久々の男性の優しさに一瞬揺れただけだ。












「え?」
耳を疑った。
吉徳があたしにアクセサリーなんてものを買うと言ったからだ。
「え、本当に言ってんの?」
今までプレゼントなんて付き合い始めた年の誕生日に一度しかもらったことはなかったからだ。

「まぁたまにはと思って。いつも彼女に奢ってもらいっぱってカッコ悪すぎだろ」
そんなこと全然気にしていないんだと思っていた。
だからすごく嬉しかった。
「外でそんな顔すんな馬鹿」ばしんと加減のできない吉徳からぶたれる。
痛いけどそれ以上に嬉しくて笑顔になる。
「吉徳ありがとう」
吉徳の少し照れた顔に胸が高鳴る。
あたしはやっぱり吉徳が好きなんだ。







夕方駅から少し歩く場所にカフェがあると言い、吉徳に手をひかれ少し一通りのない場所まで行く。
が、急に路地裏に連れ込まれる。
「え、何…!」
「たまには外もいいだろ」
と、首筋に吸いつかれる。
「ヤダ…うちでいいじゃん…」
「我慢できねんだよ…」
すでにスカートから手を入れて溝を撫で始める吉徳の手に今日はいつもより違う感覚にめまいがする。
頭がぼーっとする。
暗くなる視界の中にかろうじて映る吉徳の顔に一瞬骸の顔が重なる。
「いや…」
いつもなら強引な行為に痛みも走るのに今日は”変な感覚”に少しの怖さを感じる。

「んぁ…」
色気のある渚の声に吉徳は生唾を飲み込む。
「渚…」
吉徳が両手で渚の頬を包み長いキスをする。

めまいが強くなり、渚は脚に力を入れられなくなり地面にへたりとうなだれてしまった。
「おい大丈夫かよ…」

怖い。
痛みより、知ってしまうのが怖い感覚。

体が熱い。





今更吉徳に惹かれはじめたからなのだろうか。



「どうしました?」


違う。




あの一瞬、骸の顔が重なっていた。

から?



「具合でも悪いんですか?」



真っ赤な顔のまま声の方を向く。
そこに映っていた人物に胸が一瞬鳴った。

細く黒いシルエット。
六道骸。

林檎色の顔ととろんと潤んだ瞳に色気を感じる吉徳は下半身にむずむずさを感じながら突然の邪魔者に舌打ちをする。

骸も渚の表情に何も感じずにはいられなかったが、ぐっと気持ちを抑え込んだ。


「具合が悪いようでしたらお茶でもいかがでしょう?」
と、ペットボトルのお茶を出しながら渚に近づく見知らぬ男に吉徳は
「ちょっとエロい事しようとしてただけっすよ」
おかしなことでもないと思い包み隠さず言う吉徳。
これが一番手っ取り早いし。

だが、

「これ飲んでください」
そう言い、渚の肩に手を置く骸。
その瞬間、

「触んな」

骸が振り向くといきなり殴りかかる吉徳。
だがそんなものひらりとよける骸。
意識もはっきりしてきた渚が吉徳に声を投げる。

「吉徳やめてよ!」
「お前は黙ってろ!」
「……。」
骸は眉を顰める。
「もういい。帰るぞ」
「ま、待って…」
しびれてすぐに立てない渚に苛々した吉徳はいつものように怒号を浴びせる。
「お前がへたり込むからあんな邪魔入ったんだろが。…さっさと歩けよ」
と、背中をまた叩く。
「痛いなぁ!」
骸はそんな二人を見て、

「ちょっと待ってください」
吉徳はまた喧嘩腰で振り向く。

「そんな扱いをしているんですか?」
骸は鋭く睨みつける。
「は?だから何」

骸は堅くこぶしを握り
「その手は彼女を殴るためにあるのなら捨てたらどうでしょう?」

そう言い、骸は殴りかかってきた吉徳をかわし、腹に蹴りを入れて渚の横を通り過ぎる。

その際に
「ごめんなさい。」
そう言った。

本当は「僕と一緒に行きましょう。」そう言うつもりだった。

だが、彼女の表情を見てやめた。


その言葉を聞いてから彼女は彼の元に駆け寄った。

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