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「うぅん…」起き上がれない。
体がだるい。昨日一体何時まで情事を重ねたのだろう。時間を見てみるともう11時。今日は日曜日でよかったとつくづく思った。
「水飲みます?」一方の骸はこんなにもすっきりしている。昨日ので満足したようだ。肌もいつも以上につやつやしている。
せっかく水も持ってきてくれたので貰って飲む。
ただ起き上がるだけでもだるかった。
でもその冷たい水を一気に飲むとだいぶすっきりした。もうこれ以上ふとんに寝ていると本当に今日を無駄にしてしまうのでとりあえず起きることにした。
せっかくの日曜日だが、残念ながら骸は夕方からバイトだそうだ。昨日1日一緒にいられたからこそいつも以上に名残惜しい。
顔と歯を磨いて昼食のような朝食を食べる。
でも今日もギリギリまで一緒にいてくれるようだ。甘えられる時に甘えたい。一緒にいられるなら一緒にいたい。
何をするでもなく、同じ空間で寄り添って思い思い過ごした。
そんな中、夕方なんかすぐにきてしまう。骸は一度家に戻るようなので、帰りますと行って身支度を始める。
お父様に挨拶を、言われそれもそうだなと父の書斎へ向かう。
書斎へ行くと、父は今日は日曜だしゆっくり過ごしている様子だった。
父は骸と渚を見て、
「帰るのか」と、読んでいた新聞から目を離さないまま言った。
「はい。1日ありがとうございました。」丁寧に頭を下げる骸。
うん、と言うように頷いて、父はコーヒーを飲む。
「あと…一緒に住むことを了承しとくださったのも感謝しています。」と、骸は先程より深々と頭を下げた。
父はそこでようやく骸に視線を向ける。
「お手並み拝見とするよ。」
父は目を伏せて言った。



挨拶を終えて、二人は家の外へ。
「じゃあ。…1日一緒にいられて本当に良かったです。」
渚も微笑み、あたしもと返す。
「それで…部屋は僕が決めていいでしょうか?」
聞いてきた。もちろん払ってくれるのは骸なのだから、と渚は二つ返事で了承する。
「すぐに二人で暮らせるようになりますから。」
骸は本当に楽しそうに微笑んだ。
そんな表情につられて渚も心が軽くなってくる。
「楽しみだね。」
と、そこでまた二人語り合って居たかったが、もう時間だ。
「じゃあ、またあとで連絡します。」
手を振る骸に渚も頑張ってねと手を振替した。

そんな幸せな時間はいつもより早いスピードで静かに過ぎていった。
蝉が鳴いている。



それから、部屋が決まるのにはそう時間はかからなかった。
早い展開に渚も少し驚いた。
学校の夏期休暇には一緒に住めるようになるとのこと。
そんなに焦らなくてもいいのに、言ってみたが本人はもっと早く決めるつもりだったらしいが忙しく思ったより時間がかかっていたのが気になっていたらしい。
無理していそうで心配になる。
渚はコンビニに行き、求人票を手に取った。
骸に甘えるだけでなく、自分も頑張りたいと思った。

そう、求人票を持つ手に無意識に力が入った時、
「渚…?」
振り向くと
「渚。久しぶりね。」
「お母さん…」
そこには渚の母。
片手には買い物袋を下げている。
「何バイトするの?」
「うん。」
また再会できて嬉しいはずなのに、やはり何となく素直になれないのは前に骸との関係を好ましく思われていなかったからだろう。
でも、渚は
「骸と同棲するの。」
素直に事実を言うことにした。
それまで穏やかだった母の表情はそこで一変させる。
「…ねえ」
母は眉間にしわを寄せると
「渚、お母さんと一緒に暮らさない?」
渚はその一言に戸惑った。
「お母さんの稼ぎじゃ、不満も苦労もあるけど…」母の話が終わる前に渚が口を開いた。
「何で今更そんなこと言うの…?」
そこまでして骸と自分を離したいのか。そうじゃなくとも何故それを今言うのか。
渚は哀しくなって胸を痛めた。
「…ごめんなさい。渚を傷付けたくて言ったわけじゃないの。」
渚はただ求人票をぎゅっと握った。そんな渚に母は
「でも、同棲でもなんでもしなさい。ただし、絶対私は骸とは結婚させたくない。」
「な、なんで…?」
渚は弱々しく聞く。
母はそんな渚を見て眉間にしわをよせる。
「もっともっと頂点の金持ちと結婚するか、鈴鹿を出て普通の男と結婚するかにしなさい。」
その極端な選択肢に渚は一層頭を混乱させた。

「よく物を見なさい。よく物を考えなさい。甘い考えのまま結婚だなんて軽々しく口にしないでちょうだい。」
母は、じゃあそろそろ行くわねとだけ言うと手を振って街の中に消えた。


渚はもうくしゃくしゃの求人票を力なく握った。

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