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「ここと、ここと…ここの三か所に下見に行こうと思ってるんです。」
と、携帯の画面を見せながら骸が言う。
「三か所もあるんだね。楽しみだな」言う渚に骸は微笑んで早速最初の候補の場所へ。

少し歩いて着いた場所は大学から近い所だった。案内人がいて部屋の中を案内される。2人で暮らすには少し広めかもしれない。
割と古風なところというか落ち着く印象だった。
ある程度説明されて一か所目を後にした。
二か所目はマンションで少し豪華な印象があった。アパートで十分なのにと言ったが骸は特に気にせず選んだのだとか。
やっぱり中は綺麗なところで、住み心地も良さそうだった。渚も骸も先ほどよりはこの部屋がいいかもしれないと言いあう。

お昼なのでいったん休憩でファミレスにきた2人。注文し終わり一息つく骸を見て
「今度骸のバイト先食べに行ってみようかな」言う渚に骸はどうぞと嬉しそうに笑った。
「ウェイターやってる骸かあ」と、こういう感じで注文受けてるのかなあと想像する渚に骸がきょとんとする。
「ウェイター?」と聞くから「ウェイターじゃないの?」と聞くと
「僕はキッチンをやっていますよ」と言った。言ってませんでした?と聞く骸に渚は聞いてない聞いてないと首を横に振る。
「ウェイターやってる僕がよかったですか?」聞く骸に渚はううんと答えた。正直骸がウェイターやってたら誰かにとられてしまいそうで心配だったので安心したかもしれない。
「キッチンやってる骸かあ」と先ほどと似たようなことをつぶやく渚。想像して、もう絶対格好いいなと渚はなんだか負けた気分になる。女の子のバイトとかいないのかなとか気になる所だけど、なんか見苦しいし聞くのはやめておこうと水を飲んだ。




料理を食べてしばらくゆっくりしたあと、二人は最後に3カ所目にきた。
落ち着いた紳士な人が案内人で、アパートだった。
中は実に、まあ普通で過ごしやすそうだった。
なんとなく前に住んでいたアパートに似ていて、渚は内心ここがいいなと壁を撫でた。家賃も無難だし、大学もそんなに遠くはない。

「それではご検討ください。」
と会釈され二人も会釈。
しばらく二人で不動産屋を見たり、なんとなく飽きたから家具屋なんかも見た。
買い物デートも楽しいけど、たまにはこういうのも楽しいねと笑った。
なんだか久々の骸との時間はすごく充実して、いつにも増して名残惜しい。

そんな自分が情けなくて小さなため息をついた。


「送ります。」
帰り道骸がなんだか緊張したように言う。渚は骸の緊張を察して
「お父さん今日いると思う。」
言うと骸はもっと緊張したようだった。そんな骸に渚も緊張する。



渚の家への時間はそうかからなかったようで、すごく長かったようにも思える。

広い家に骸を招く。お帰りなさいませと使用人が頭を下げた。
いつものことだけど、なんとなくもう恥ずかしい。お嬢様とももう呼ばれたくない。
篠木にだってお帰りなさいお嬢様なんて言われてるところを見せたくなかった。



考えてみれば骸をこの家に招くのははじめてだ。だからこそ緊張する。

渚は骸の手をひいて父の書斎へ。
ドアをノックすると、入れと声が聞こえる。渚だとわかったんだろう。
入ると書類にだるそうに目を通している父がいた。
母が出て行った当時はあんなに駄目だった父も今では書類に目を通しているのだ。渚はそんな父を少し見直した。


「鈴鹿さん、失礼します。」
骸が深く父に頭を下げる。父は骸の姿を見ると書類を置いて立ち上がった。

「やあ。久々だね骸君。元気か?」「はい。」
挨拶程度の会話を終え早速渚は父に話があると言い出す。
「なんだ。」父は疲れているのか微かに目をしょぼしょぼまばたきする。渚はそんな父を見て、一瞬の間を開けた。
渚は骸の背中に手をおく。骸は渚と顔を合わせてから
「僕、少し前から飲食店でアルバイトを始めました。」
まずその報告からすると、ふむと頷く父。
「しばらく働いてお金も貯めてきました。」
ふむふむとまた頷く父。
「僕と渚の力で同居していきたいと考えています。」
父はそれを聞いて、しかし顔色一切変えず、
渚達の緊張をよそに

「あぁ、そ。」
言っただけだった。骸は少し動揺しながら、また改めて言った。

「渚さんと二人暮らしをしてもいいんですか…?」
父は小さなため息をふっと漏らしてから
「骸君と渚自身の力でできるものならやってみろ。」
父にしては少し厳しい声音で、渚は父を頼もしく感じた。何故今更と苛立ちも感じた。

「まあ、今日は泊まって行けばいい。疲れてるんだろう。」
と再び書類を取り出す父。動揺する骸と渚に父はまた気怠そうに
「もう済んだなら下がってくれないか。」
あくびをしながら言う。



動揺がまだ落ち着かないまま二人は渚の部屋へ。
やっと安心したのか骸はソファに腰掛ける。
「良かった…」
言いながら顔を手で覆う骸。相当緊張していたようだった。
そんなに緊張する骸が新鮮で渚はなんとなく得した気分になった。
渚はところで、と骸の隣に座る。
「今日泊まって行く?」
渚が聞くと骸ははっとする。
「い、いいんでしょうか…?」
骸はなんだかまた緊張した面もちになる。いいも何も父が了解したのだから良いんじゃないのだろうか。
それを言うとそれも
そうですねと力なく笑う骸。そんなに疲れさせてしまっただろうか。
思いながらも今日は久々に、本当に久々に骸と1日過ごせるのだ。
渚は嬉しくなって抱きつく。
おつかれさま。耳元で言えば骸はくすぐったそうに肩を跳ねさせた。
見つめ合うと、なんかいい雰囲気。骸はソファに渚を押し倒すと、噛むようなキスをする。
なんかもう、と骸は渚の腹を手で撫で始めるが、
「骸、夕飯…!」渚が骸を制止する。
夕飯ができたようで、これから使用人が入ってくるのだそうだ。
そんな中お構いなしにできるはずもないので骸は真っ赤な顔のまま座り直す。
そこでコンコンとドアがノックされた。

夕飯というかもうディナーを二人で食べる。
おいしいけど、やっぱり渚の作った普通の料理の方がやっぱり暖かい。


夕飯を食べ終わった二人はお風呂に入ることに。
今日は一緒に入ろうと言う渚の言葉に甘えて一緒に浴室へ。

渚と更衣室で着替えてる時にはもう襲いたかったが、なんだか使用人が入ってきそうで中々手が出せず、まだ湯に入っていないのにのぼせそうだった。

それは浴室に入っても同じで、やっぱり早く二人暮らしする日が早く来ないだろうかと身体を洗いながら思った。



ぽちゃん…。なんだか静か。
湯船に二人くっついて入ってる。骸はもう起き上がってるのを隠すような体勢をとる。
けどやはり人の家は誰でもだめなものだ。

そんな骸に渚が動いた。
「まだ緊張してるの?」
骸はただ苦笑いした。渚はつまらなさそうな顔をしたあと、先ほどのように骸に抱きつく。
直に触れる肌に身体に骸は身体を跳ねさせた。
「ちょっ…!え…っ」
骸が何か言う前に渚が骸にキスする。
そして渚は骸に跨がって向き合って座った。
もう、今すぐできる体勢とか鬼畜ですかと骸は頭を混乱させた。
渚は骸の耳元で
「誰も来ないから」
呟いて骸のすでに張り裂けそうなそれを撫でた。

それからしばらく、浴室には渚の喘ぎ声と、ばしゃばしゃと湯船の湯が暴れる音だけが響いた。

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