62
次ぐ日、渚と篠木は一緒に登校した。
そして授業も一緒だったため、授業が終わると一緒に保健室に向かった。なんとなく篠木は先生と気まずくなりそうだと少し背中を丸めたが、実際に保健室に行ったら大して先生も先日の事について触れなかったため久々に三人でゆっくり話せて楽しかった。
なのに、
今日は遅くまで保健室で騒いでいたために先生も帰る時間に大学を出た。すると篠木の彼があの笑顔を構えて校門にいた。渚はまた背筋を凍らせる。
渚の表情に篠木が気付いて、声をかけようとしたけど、それを篠木の彼が遮った。
「遅かったじゃない」
と彼は篠木に言ってから渚を見た。うっすらと笑みを浮かべるこの男。渚は少し眉間にしわを作った。
「何ですか?」
篠木の彼は渚に聞いてくる。渚は何も言えず俯くが
「…でください」
「え?」
篠木と篠木の彼が同時に声を発した。
「篠木をぶたないでやってください。」
こんなこと言うタチじゃないのに、渚は口を開いていた。こんなこと言っても篠木がまた殴られるだけとわかっているけど、
この男は吉徳みたいな男とはまた違う。

たぶんこいつ、

と、渚が睨んでいると、「…てよ…」震えた声の篠木を見ればそこには体を震わせる篠木。
「だって篠木…!」
渚が篠木に何かを言いかけようとした途端、

ぱしっ

乾いた音が静かな景色に響いた。
その音と衝撃を理解した時にはジリジリと頬がしびれていた。
渚は篠木を見ると涙をためて眉間にしわを寄せる篠木。なんで…?聞く前に自分で理解した。
「あんたにはわかんないよ!」
渚は静かに熱を帯びる頬に手を添えながら篠木をただ見た。
「あんたみたいなお嬢様で、優しい彼氏がいて毎日何不自由ない暮らししてるあんたにウチの何がわかるって言うの!?」
早口でそれを自分に叩きつける篠木をぼーっと眺めていた渚。

自分はお嬢様だから何不自由なかっただろうか?
確かにお金はあった。
愛に飢えてるわけでもなかったかもしれない。
篠木の言う通り、骸だって自分にはいる。

でも、


「篠木は放っておきたくないと思った」
静かにそう告げた。
篠木はまた眉間にしわを寄せた。たぶん泣くのを我慢してるんだと思う。

渚は篠木の背中を撫でた。
「絶対痛いのに。やめてって言ってるのに、わかってもらえないのに、それでも相手が好きだって毎日毎日自分の中で自分を言い聞かせて、」
うまくしゃべれない。
「そんなに頑張ってるのに他人はきっと馬鹿だろって思う。ううん言えない。言ったって信じてもらえない。彼が優しい彼がそんなことするわけない。嫌なら別れて、彼を寄越して、あんたなんか尻の軽い女彼に似合わない。馬鹿馬鹿しい」
怖いくらいに意味もわからないままに渚は篠木に訴えた。篠木は渚を見つめてただ涙した。
「あんた…?」
あんたも殴られてるの?と聞かれた。きっと骸の事だと思ってるんだ。
渚は涙でまつ毛をぬらし、俯きながら首を横に振った。
「前の男にあんたと同じくらい痣付けられた。」
だからさ、あんたにはわからないって言われたのに腹たっただけだよと笑ってやった。
「好きだって昨日言ったよね篠木。でもね、…でもねそれってもう幻想なんだから。自分に言い聞かせてるだけなんだから。」
渚がそう言ったところで篠木の彼がはあとため息をついた。
「さっきから聞いてればなんなんですかね?あなたそんなに人の色恋邪魔したいんですか?」
篠木の前に立ちふさがる彼。
渚は言ってやった。
「あんたどうせやり手なんだろ?」
聞くと彼は眉間にしわを寄せた。
「は?」「何人の女股にかけてんの?見りゃわかるんだかんね」
篠木は意味がわからないと眉間に力を込めている。そんな篠木を横目に彼は「証拠もないのに何言っちゃってんの」と笑った。そして逃げるように行こうかと篠木を連れて行こうとした瞬間、
「証拠あったらどうするの」
と、背中に聞こえた声は
「これなぁんだ?」とデジカメを掲げる先生が。
「は…?ただのカメラじゃないですか」
と明らかに苛々を表し始める彼にしかし先生は余裕の表情。「あんたこの前一日で三人の女の子と会ってたろ?」
とデジカメにおさまっている彼の浮気現場。男は
「クッ」と声を漏らした。声をつまらせたのではない、笑ったのだ。
「いいよもうめんどいから別れます。はいこれで良いんでしょ?」と言った。
篠木はただ彼を見つめていた。
彼はそんな篠木を嘲笑って、耳元で「愛してたよストレス発散ありがとね。」と耳にキスした。
渚はブチリと頭の中で糸が切れる音を聞いた。それは渚のものでもあったが、

「待って…!」涙をためたような篠木の声に彼は笑って振りかえった
瞬間
ゴンン…!と鈍い音が響いた。

その瞬間には彼は倒れていた。どうやら校門の壁に彼の頭を打ち付けてやったらしい。


篠木はちょっと笑って「帰ろうか」と言った。
渚はただ隣を歩いた。先生も何も言わず帰路についた。
篠木はしばらく歩いたあと、「本当だった…」つぶやいた。
「言い聞かせてただけだったみたい…」涙をぬぐいながら言った篠木。
「悲しいし、悔しいけど、よかったって思った。」
もう痣つくらないしもう痛くないしもう我慢しなくていいしもう押さえつけなくていいし
もうもうもう…
「よかったあ…!」篠木は安堵のため息と大粒の涙をひたすらこぼした。

渚も隣で静かに涙を浮かべた。

そして、季節がちょっとだけ進んで、夏。
骸から連絡があった。骸は最近すっかりバイトで頼られてしまい、電話でしか言葉を交わせなかった。流石に夜中電話をかけてくれる骸の声から疲労が感じられる。
そんなに無理しないで電話してこなくてもと言ったら、渚と言葉を交わさなければやってられないのだそうだ。
そんなこんなで今日も向こうから電話がかかってきたのだが、今週の土曜日に久々のデートの申し込みが入った。もちろん行くともと答えると嬉しそうに反応する骸の声に渚も微笑んだ。
楽しみだねどこに行こうかと渚がプランを膨らませていると
『今回は行きたいところが決まってるんです。』
あ、そうなの?どこ?と聞くが、曖昧な返事をされて流されてしまった。まあ秘密にしておきたいのなら別に無理に聞くこともないだろうと渚も当日を楽しみにしておくことにした。


今日もいろんな話をしてお互いおやすみを言った。
久々に骸とゆっくり過ごせるのかと思うとなんだか緊張してきた。

今日は素直に寝ることにした。













土曜日は割とすぐにやってきた。
10時に待ち合わせ。駅前で骸を見てなんだかまた緊張してきた。でもなんだか初心に返ったような感覚で嬉しかった。
いつも以上におしゃれした自分を骸は気付いてほめてくれた。
嬉しい。なんだか篠木のこととかお見合いの事とかで本当に骸とゆっくりできるのって久々な気がする。

骸は自然に手をつないだ。
渚が「今日はどこに行くの?」と聞いたら骸は楽しそうに笑って


「部屋を見に行きます。」

そう言って骸は歯を見せて笑った。

|

[しおりを挟む]
[Back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -