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「渚、どうだった?」
家に帰ると父がすぐに出迎えてきた。
が、やはり見合いのことが先で、おかえりの代わりにそれだ。
渚はふっと笑ってみせて、
「うん、良い方だったわよ?」
と言いながら自室に向かう。
すると、父がほっと息を吐いたのが聞こえた。
きっとお見合いした方も同じように言って親をぬか喜びさせているんだろうと、少し笑ったが
ほんの少し罪悪感も感じた。
渚は自室に入りベッドに身を投げる。
見合いした方のあの恋人への愛しげな表情を思い出して胸が暖まった。
そして、自分も骸を愛しているんだと確信して、頑張っていけるような気がした。

だが、母に最後に会った日、
母にまで骸との結婚を否定されたことがまだひっかかっていてすっきりしなかった。


渚はずっとそれについて考えていたが、

「もしかして…




あたし達兄妹とか…?」

ただの時間の無駄だった。
「わかんないなあ…。何でそんなに骸とじゃ駄目なの…?」
渚は母の携帯の番号をただ見つめた。だんだん眠くなってきたのでこの日は風呂に入って寝た。





次の日、昼休みに骸と会った。
久々に一緒に昼食を取った。
そして渚は見合いについて話しをした。
「…ということで、相手ももう決まってる人がいるみたい。」
骸はそれを聞いて、安心したように息を吐いた。
そして微笑んだ。

いつも見ている微笑みなのに、今日はやけに安心する。


日常がこんなにも大切なものなんだと思った。

渚も笑い返すと、骸はそっと渚の髪を撫でた。
それには毎回胸が高鳴って、恥ずかしくなる。
周りに誰かいないかそっと周りを見渡すと、

「…っ!?」

篠木がいた。
渚の様子に骸が渚の視線の先に目をやると女の子。
骸はさっと渚の髪を撫でていた手を離した。
その様子をみた篠木は固まった表情で
「お、お邪魔しました」
と、その場を去ろうとしたが
「し、篠木待ってよ、一緒に食べようよ」
渚が言うと篠木は困ったような表情で振り向く。「わ、悪いよ…」
だがもう一度渚が一緒にと誘うと渋々弁当を広げる篠木。

隣に座った篠木に渚が
「篠木。こちら六道骸さん。あ、あたしの彼氏です。」
と、改めて骸本人の前で彼氏ですと紹介することにすごく照れた。

骸も内心とても喜んだ。

そして骸になおり
「こちらは篠木」




骸は食べ終わると、気を使ったのか
「では、僕はこれからバイトなのでお先に失礼します。」
と篠木に会釈する骸。
丁寧な骸に篠木も戸惑いながら会釈を返す。

「じゃあ渚、またあとで連絡します。」
と言って微笑み、渚もバイバイと手を振って骸は行った。

しばらく沈黙が続いたあと、篠木が
「あ、あれが彼氏?」
と固まった笑顔で聞いてきた。
「うん。前一回見たことあるじゃん。」
挨拶させるのは初めてだが。
「ふぅん…。」
そう声を漏らした篠木は宙を見つめる。

今日はとても静かな日だった。

別の日、渚は夕方に授業を終え、スーパーに寄っていた。
1人暮らしをしているとついつい献立を考えるのが日課になっていた。
もう考える必要も作る必要も今はないのに。

寄ったからにはお菓子でも買っていこうとスーパー内を廻っていると
「あ」
「え、」
先に声を出したのは
「渚?」
「篠木」
かごを片腕にかけて中にはたくさんの商品。
「あんたも夕飯の?」
「え?うぅん、ちょっとしたもの買いに来ただけ。」
と、自分が買うものを掲げた瞬間、

「おーい、もうレジ行く…」
篠木に話しかけながらこちらへきた男性。
渚の想像とはまったく違っていて、

身体は中肉中背といったところで、
容姿はとてもおとなしそうな好青年だった。


だが、渚は背筋にぞくりと寒気が走る。
彼は渚を篠木の友達だと理解したようで
「はじめまして。」
と微笑んだ。

だけど、彼の笑顔の奥を渚はすぐ察知した。

そんな3人の元へ、

「ん?なんだお前ら」
と、また後ろで良く聞く声が

振り向かなくともわかったが、
「先生」
と、篠木が声を出した。
先生もすでにかごのなかに色々入ってる
「先生どうしたの?」
時間的にまだ業務時間は終わらないだろう
だが私服だ
「いや、ちょっと学校用に買い出し。まあ今日はこのまま帰るけどな」
渚はそうなんだと言いながら、先生が自分たちに声をかけたことを一瞬恨んだ。

渚は篠木の彼を見る

「先生ですか?はじめまして。」
とまた微笑んで挨拶する。
渚はただ怖かった。
たぶん、きっと彼は吉徳より恐ろしい。

先生も挨拶する篠木の彼に少し間を置いてから
「あ、どーも」
と、軽く笑った。
先生も篠木がよく痣を作ってくるのを知ってるはずだ。

「じゃあ僕たちはそろそろ行こうか」
と篠木の背中を押す。
渚は、行ってしまう篠木に何も言えなかった。
が、
「おい」
声を発したのは先生。
篠木と彼だけでなく渚も振り返った。
先生は
「君は自分の女をちゃんと愛してるんだろ?」
と、先生が真面目なことを言い出した。
「…?当たり前じゃないですか」
彼の笑顔がまた先ほどと変わった。
また恐怖を感じた。

彼は、ではと言って篠木と行ってしまった。


しばらく沈黙のあと
「…はぁぁ…」
と渚が深いため息をついた。
「あいつは早いとこ切った方がいいよな。」
渚は先生の言葉にまた不安を感じる。
「わかってるだろうけど、そんな簡単じゃないよ」

先生は眉間にしわをよせた。









今日の夜11時、
バイトを終えた骸から電話があって随分と長く話していた。
骸からは疲れとかはあまり感じなく、きっとそれは目標や充実感があるからなんだろう。


たくさん話をした。


だけど、ふと脳裏をよぎったのは篠木だった。

今篠木は無事だろうか
大きな心配が胸に募り、罪悪感を感じた。


次の日、渚はすぐに篠木を探した。
いつもの教室にいて、
驚いたのは痣がないこと。

それにまたぞくりとした。



きっと見えない場所に痣を作ってるんだ。
渚はできるだけいつも通り接した。

二人きりになったとき、篠木の話を受け入れたかった。

自分が受け入れて欲しいと願っていたから。


















渚は久々に"友人"を家に招いた。

何も言わず、お帰りなさいお嬢様と言われている渚に篠木は目を丸くした。

部屋に入るとまた目を輝かせた。

「あ、あんた何者なの…?」
渚はベッドに腰掛けて靴下を脱ぎながら言った。
「いわゆる令嬢。」
「…え、お嬢様とかって本当にあったの!?」
と混乱する篠木に渚は
「はじめてなんだよ。」
「は?」
渚はまっすぐ篠木を見ていった。

「友達を呼ぶのも、金持ちの娘ってバラすのも、あんたがはじめてなんだよ。」
篠木は驚いたあと、少し照れたように頬を染めた。
だが、
「だからさ、」
話を転換する渚
「篠木も抱え込んでること吐いちゃいなよ。」
と、篠木を抱きしめた。

篠木はしばらくすると鼻をすすりはじめる。

「ウチ、あんたがうらやましい、
あんな優しい男が恋人で、好き合ってて…大切にしあってるの見て」
背中をさすると、嗚咽をもらす篠木。
「でも、ウチは好きで、好きだから…」
渚はそう言う篠木に
バレないように涙を流した。


「それだけなんだよ…」
そう吐いた篠木に渚は笑って

「わかった。」
と、篠木の言葉を受け止めた。
「じゃあ一緒に風呂入るか」
と笑ってやると篠木もくしゃくしゃの顔のまま笑って頷いた。


お風呂でみた篠木の綺麗な身体にはやはり痣がいくつもあった。








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