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「え"先生26歳!?24くらいだと思ってた」
お昼休み。いつものように三人で保健室に集まる。
「ああ。若く見えるだろ?」
コーヒーを含みながら言う先生。
「結婚してんの?」
篠木がニヤリと笑いながら聞くが
「彼女もいない。」
と先生はキッパリ言い放つ。
そしてタバコをふかしはじめた。
「ちょっと生徒の前でやめてよ。」
渚が渇を入れるが
「いいだろ。本当お前らもガキだなあ」

と言った所で、篠木がトイレに行く。

ムードメーカーでだいたい話の中心になる篠木がいなくなりいきなり二人きりになり、会話がいったんなくなる。
だが、だからといって何だということもなかった。


暖かい日差しが差し、この静かな空間が心地良い。

「ここくると落ち着くなあ。」
渚はソファの背もたれに寄りかかって天井を仰いだ。
「保健室もそう言われて嬉しいんじゃねえか。」
微かに表情が緩む先生に、渚も微笑む。

このタバコの煙たさも、もう慣れた。
渚はタバコをふかす先生を見て、ふと
骸もここにいたら、と思った。

今度骸もここに連れてこよう。













荷造りもだいたい終わり、部屋はすっかり殺風景になっていた。
時間も時間だし渚はベッドに入り、電気を消した。

いよいよ、今週の日曜日。
つまり明後日この慣れ親しんだアパートを出る。

そう思うと本当に寂しくなる。
色んな思い出を振り返りながら渚は静かに眠りについていった。





朝、引っ越し業者がきた。
とりあえず大きな荷物を運んでもらう。

渚は長い間お世話になったこの部屋を最後に綺麗に掃除する。
一つ一つに感謝する。

午後2時には掃除も終わった。

あとは明日、また残っている荷物を運んでもらい、自分も家に帰るだけとなっていた。

渚はアパートだけでなく、近くの公園とも離れるので
足を運んだ。


土曜日のため今日はたくさんの子供や親子がきていた。

渚はベンチに座り、しばらく公園を眺めた。

おばあちゃんとも
骸とも吉徳とも
一度は一緒に来たことがあった。

そんな風に考えていると

「渚…?」


渚は声の方を振り返った。

そこには


「久しぶり…」
吉徳がいた。
「…久しぶり」
渚は一瞬身体の芯が震えたが、
吉徳の穏やかな表情を見て少しだけ緊張感が和らいだ。
「今、渚何してんの?」
吉徳は一瞬渚の隣の席を見たが、座るのはやめたようだった。

「あたしは、今大学生やってる。」
「そっか。」
吉徳はどこか大人っぽくなっていて、彼なりに成長したようだった。

「吉徳も進学だったよね?」
聞く渚に吉徳は、ああと頷く。
「でも、辞めるんだ。大学。」
「えっ、だってまだ6月にもなってないのに?」
言う渚に吉徳は

「実は…俺結婚したい子ができたんだ。」
渚はそれを聞いて目を丸くした。
そんな渚に吉徳は
「お前のときみたいに乱暴はしてない。…もうしたくないんだ。」
渚は少しほっとした。
「良かった…」
吉徳は胸をなで下ろす渚に
「本当に、悪いことしてた。ごめんな。」
と頭を下げた。
「やめてよ。そんな前のこと。」
吉徳は顔を上げて言った。「渚を本当に好きになって、暴力ふるって、振られて気づけた。だから今の彼女を大切にできる。」
そう言った吉徳に、渚は何故吉徳が学校をやめるかわかった。

「働くの?」
「まだ決まってない。今日も職探し行ってて通りかかった。…でもキツい仕事でも何でもやりたいんだ。誰かのために、一生懸命に生きたいと思ったんだ。」

渚は吉徳のまっすぐな視線に見とれた。
頼もしさを感じ、吉徳と名も顔も知らぬ彼女の幸せを祈った。

「きっとうまくいくよ。」
渚は満面の笑みでそう告げた。
吉徳も満面の笑みでそれを受け止めた。

「渚は今日どっか行ったのかよ?」
吉徳に渚も告げようと思った。


「アパート、引き払うことになったの。」
渚の言葉に吉徳は少し驚いたようだった。
「明日、実家に帰るから…きっとこの公園にも来なくなると思って今日ここにきたの。」

「そうだったんだ…。」

吉徳は少し寂しげに俯いたあと、

「今日、会えて良かった。」
静かに微笑んだ。

渚も微笑む。


きっともう二度と会うことはない。


「「バイバイ」」

そう手を振った。














新着メール一件。

骸から。





『バイト決まりました。』







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