57
夕日に照らされ、まだ明るい部屋に帰った2人。

渚と骸はお互いもう慣れたように鞄を置き、定位置に座る。


「で、話って何?」
渚が骸に聞くと、骸は
「渚からどうぞ。」
そう言われ、渚はそう、と言ってから表情を沈ませる。

「突然のことなんだけどね…?」
骸は、はい。と相槌。


「今月いっぱいでこのアパート引き払うことになったの。」
渚が静にそれを告げると、骸は少し目を見開く。

だが、あまり驚いてはいない。
いつ渚からこの言葉を聞いてもおかしくはなかったから。
骸は少しまぶたを下げる。

「そうなんですか…。そうですよね…。いつかはここを離れるってわかってましたから。」

短く告げた渚は、
「あたしが言いたかったのはそれだけ。骸の話聞かせて。」
渚が骸を静かに見据える。
だんだん夕日が落ちていくのさえ気にならないほどに。

骸はじっ、と渚を見てから、ゆっくり口を開いた。

「僕は、お恥ずかしながら見ての通り温室育ちで…苦労というものを味わったことが記憶にないです。」
渚は話の入り方に少し目を丸くした。
「実は、再会したばかりの渚に嫌悪感を感じていました。」
渚はまた目を丸くした。
その渚の表情の変化に骸が少し急ぎ足で話す。
「鈴鹿の令嬢がバイトなんて、普通のごく一般市民の高校に行くなんて、安いアパートで暮らしているなんて、と」

骸はですが、と繋げる。

「そんな渚だからこそ心惹かれ、健気な渚と一緒になりたいと思いました。」
骸は必死に"惹かれた"という気持ちを表情、声音、仕草で伝える。
「そしてはじめに戻りますが、僕は温室育ちで苦労も努力も対した悩みも抱えず育ってきました。」
渚は一生懸命何かを伝えようとする骸をまっすぐに見てうん、うん、と首で相槌をうつ。

「でも、こんな、このままじゃきっと渚と一緒になれても、渚や家族を率いていけるか、満足させてあげられるか考えたら、自信なんかあるわけなくて、」
言葉は自信なさげなのに、だけど骸の眼差しは一点を見ていて覚悟が感じ取れた。
その覚悟を渚は静かに待つ。

「バイトを続け、自分の生活をきちんとこなす渚を見て、学びました。」
渚はついに、うん。と声を出して相槌。

「僕、勉強します。勉強して勉強して、父の跡取りに相応しく且つ、父を越えて渚のお父さんに認めてもらえるように家の名を今以上に上げていきます。」

そう告げる骸はいつの間にか渚の手を握っていた。

もう夕日は落ちていて、微かに差す光が空を薄く照らす。
部屋はすっかり薄暗く、お互いやっと見えるくらいだ。

「実は、アルバイトもしようと思っていて…」
渚はえっと声を上げる。

「大丈夫なの?」
「勉強もしたいのでそんなにシフト入れてもらうことはないと思いますが、」
少し不安げに微笑んだ骸に渚は不安そうに眉を下げる。

そんな渚に
「渚、渚さえ良かったら…なんですが…」

「ん?」







「同棲…してくれませんか?」
少し緊張してるように言う骸。
渚は微かに声を漏らした。
「バイトに慣れてからだと思うので、来月以降にはなりますが」
渚は胸の高鳴りと、新しい生活が見えたことに頬が緩む。
「あたし、骸のこと精一杯サポートするから。」
照れたように微笑むと、骸の目元から微かに光がみえた。

「え…?」
骸は脱力し、渚に身体をあずけた。
「何か、安心しますね…」
静かに涙をこぼす骸。

はじめてバイト先に面接に行った日の緊張していた自分を思い出す。
渚はそっと骸の背中をさすってやった。

すっかり暗くなった室内。



だけど、まだ電気はつけないことにした。

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