48
一年がたった今始まって、

一年がたった今終わった。


そして、
「…え」

今、今年初めてのキスに頭を溶かす前に、

とても大切な言葉を骸からもらったような気がする。

「けっこん…?」

骸が渚から少しだけ離れる。


「まだまだ僕も渚も子供です。僕が渚を十分に満足させられるようなちゃんとした大人になるまで、大学を卒業するまで、渚はゆっくり考えてください。」

いきなりのそれに、もちろん渚は驚きを隠せない。

「む、骸はあたしでいいの?だって一年も付き合ってないのに…」
それは昔一緒に同じ地域に滞在してた二人だけども、
確かに骸の事を好きというだけじゃない、もっとそれ以上に感じるけど

「まだ一年も経ってないんだよ?」
もう一度同じことを自分に言い聞かせるようにつぶやく渚。

「いいんです。僕は渚がいいんです。渚はまだ18歳ですし、これからの人生の中でいろんな出会いがあります。渚は大学でこれからのことを学びながら僕との未来をゆっくり考えて欲しいんです。」
「……そうだね。」
骸は少し不安そうに俯く渚にまたキスをした。


「ただ僕が渚を予約しておきたいだけなんですよ。」
渚は骸のその言葉で吹きだす。

「ははっ!何よ予約って」
笑う渚に骸も微笑んだ。

「でも振るなら早めにしてくれないと」
骸が少し悲しげに言うと渚が目くじらを立てる。
「そういう冗談は禁句でしょ?さっきあたし予約した奴が何言ってんの?」
と怒ると骸は嬉しそうに笑った。
そんな骸の笑顔を見て渚もにかっと笑って見せて、
「大丈夫、大丈夫だよ」






自信があるからさ。



















正月ムードもなくなり、渚は家庭研修期間に入っていた。
「卒業もあと少しかあ」
家庭研修中はどうしても暇になってしまう。
毎日ゴロゴロし放題。

実家にはまだ帰りたくない。
まだわがままを行ってこのアパートで暮らしている。

祖父母は正月に帰ったまま実家に戻ると思っていたらしいが、なかなかここをひきはらおうと思えない。


母型の祖母と過ごした大切なこの狭い空間を手放したくない。


だが、大学に入る頃までにはという約束をしてしまっている。


できれば父にも会いたくないのに。



いつも思っていたけれど、自分は母について行きたかった。
母と暮らしていたかった。
そんなふうに一人過去の事を未練がましく思っていると、不意に携帯が鳴り響く。


携帯のディスプレイを開いたとき、渚はつい緊張して正座する。


そこに表示された人物の名前は確かに”母”だ。
正月のあのあと、渚から電話したのだがうまく話せなくてとりあえず渚の自分の携帯番号を教えていたのだ。
それからおたがい忙しくてまだ連絡を取っていなかったのだ。

ドキドキしながらペアキーを押すと

『…もしもし?』
お母さんの声がする。
「も、もしもし…」
渚が言葉を返すと、母ははあと息をはいた。
「よかった出た」
「で、出るに決まってるじゃん」
そう少しぎこちなく笑うと
「ははは、ごめんね。渚、今度卒業式でしょう?」
「うん。」
渚はいつのまにか緩んでいた頬を元に戻しながら頷く。
「あのね…あぁ…こんなこと言っていいのかしら」
そうもったいぶる母に渚は言ってと催促。
母は少し迷ったあと


「渚の卒業式見に行ってもいいかな?」
思ってもない、願ってもないことを母が申し訳な下げに言った。

「も、もちろんだよ!」
渚は嬉しさをなんとなく隠しながら言った。
電話の向こうの母は嬉しそうに笑ってた。



卒業式待ってるからね。


そう言って渚は電話をきった。

骸を紹介するんだ。
渚はまたいつのまにか頬を緩めていた。


卒業まであともう少し。

|

[しおりを挟む]
[Back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -