46
風邪から完治した頃にはすっかり年末だった。

渚は年末年始は家に帰ることになっている。


久々の実家はやはり大きい。

今の渚が住んでるアパートがいくつも入る。

「お嬢様。お帰りなさいませ。」

執事やメイドが渚に頭を下げる。
「ただいま。お出迎えありがとう。」

「渚か、待ってたぞ」
祖父と祖母が階段を下りてきた。

「渚ちゃんお帰りなさい。」

「おじいさん、おばあさんただいま。」
無機質な微笑みを向ける。
ここに帰ると何故か自動的に無機質になってしまう。

「渚。」

その声の方に渚は向く。
「お帰り。」
父だ。
渚は何も返さず自分の部屋に行った。

夕食は部屋で1人で食べた。
父の顔を見るだけで吐き気がする。
また見合いがどうだなんて言われたら本当に吐くだろう。
風呂からあがると携帯が光る。
骸から着信がかかっていたようだ。
渚はすぐさま電話をかけなおす。
ワンコールしないうちにすぐに骸が出る。
『もしもし』
骸の声だけで安心する。
「こんばんは。どうしたの?」
『いえ。もしよかったら、大晦日一緒に神社行きましょう。』骸の言葉に渚はさっきまでの吐き気を一気に忘れる。
「うん!」
自然と零れる笑み。
お誘いの話が早めに終わると、いつもの他愛ない話をしあって眠りについた。






大晦日の日、昼間は祖父母と父と4人でただ過ごした。
一緒にリビングでくつろぎ、昼食をとる。

そして夕方になり、出かける用意をして家を出た。
息苦しくて、でも息苦しさを感じていることすら祖父母やメイドたちに申し訳なくて家から出ると一気にため息が出る。

渚は街を歩いて、鏡を見るとなんだか引きつった顔。
こんな顔で骸に会うのか、とまた少しため息。

そんなこんなで駅に着くと骸の車。
「ごめん、お待たせしちゃって。」
「いえ」
渚は骸と運転手に言う。

「何だか今日はお嬢様っぽいですね。」
「お嬢様だもの。」
言ってる自分に寒さを感じる。

神社についた頃にはもう人がたくさんいる。
「寒いですね。何か暖かいもの飲みますか?」
「うん。甘酒とかいいな。」
そう言うと骸はわかりました、と言い、微笑むと人混みの中をかき分けて甘酒売り場の方に行ってしまった。
一緒に買いに行きたかったのに、とおいていかれて寂しくなる気持ちで佇んでいた。


空を見るとどうやら曇っているようで、星はまったく見えない。
わざわざ神社に来なくても二人きりでひっそり一年の終わりと始まりを祝いたかった。

そんなことを思っていると、
「…渚?」
「?」
名前を呼ばれた。
渚は声の方を振り向くと

「…お母さん、?」

母だ。
小学校の時別れて以来ちゃんと顔を合わせたことはなかった。
「おばあちゃんのお葬式以来…元気にやってるの…?」
おばあちゃんのお葬式以来と言っても渚は母を見掛けた覚えはなかった。
泣きはらしてよく覚えていなかったし、きっと母が渚を見掛けただけなんだろう。
「元気だよ…。お母さんは?」
「元気よ元気…!」
母は渚の頬を両手で包み込み、渚の顔をまじまじと見る。
「うん、お母さんに似て綺麗だ。」
年の割にしわくちゃな手。
水仕事で殆どの女性はみんな手も荒れて皮もむけてささくれてしわくちゃになる。
でもこのしわくちゃな手が何故か暖かくて優しくて
お母さんの冗談に笑うつもりだったのに、涙が出てくる。
「お母さん、…」
お母さんの"庶民的な"エプロン姿は昔の田舎に滞在してた時以来の姿で


とか…
うん…
いや、
もう。
単純に
嬉しかった。


「あたしは庶民の子だよ。」
使い古されたエプロンをまとう母に抱きついた。
お母さんだ。
お母さんだ。

「お母さんだ…!」

優しくて
強くて
怖い
鈴鹿渚のお母さんだ。













両手に温かい甘酒をもった骸が渚を見つけるが、女性に抱きついて泣いている。

あの女性に見覚えがあった。
すぐにわかった。

渚の母だ。

骸はしばらく二人きりにしようと、道端で甘酒を一口口に含んだ。

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