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ひそひそ



(鈴鹿さんが…?まあ、…)
(親父の方はいいが、渚が心配だな…)
(そうね、…)

確か"その"知らせを聞いたのは自分が中学生の頃。

渚の顔を朧気に覚えてるだけの頃。

渚の両親が離婚したと聞いた。



自分は少し驚くだけで、無関心だったのかもしれない。








小学校高学年。
いつものように広いお家に帰ってくると毎日一番に迎えてくれていた母がいなかった。

代わりに居たのは背中を丸めた父が座り込んでいただけだった。


(ただいま…)
(………。)
子供ながらにわかっていた、
母が父に愛想尽かされていたこと。

この日を境に"ただいま"なんて言わなくなった。
















手が震える。
母が手帳の紙を千切って渡してくれたもの。
母の電話番号。
携帯ではないようだ。

手が震えるのは寒さか、嬉しさか。


母は渚にこの大切な紙切れを渡すと、どこかへ行ってしまった。

母はこの神社のお手伝いで来ていたようだ。
渚は手渡された紙切れをなくさないように手帳にしまった。


必ず連絡する。














「ぬるい…」
手渡された甘酒は、時間がたっていてぬるくて、というかもはや少し冷たいくらいだ。

「ああ、すいません。」
「…てゆうか遅かったね。そんなに混んでたの?」
「え?ああ、いえ…」
渚はぬるい甘酒を飲み干してゴミ箱に捨てる。

お腹もぬるくなったと言いながらお腹をさする渚に骸が
「か、買い直してきましょうか?」
「え?あぁ、ごめん。そんなつもりじゃなかったの。…買ってきてくれてありがとうね。」
ふ、と笑う渚に骸も
ほ、と頬を暖める。

「今度は一緒に買いに行こうね。」
ご機嫌なのか、渚はまたふわりと笑う。

母に会えた喜びなのか、と素直に可愛いと思った。
母を恋しく思う普通の女の子だ。



そんなこんなで今年も残り一時間もない。

骸と渚は御礼参りを早々に、少しだけ人気の少ない所で座っていることにした。


「今年もあと少しだね。」
「……ハイ。」

雪が降り続ける。

静かな場所で二人きりで静かにその時を待つ。

「あたしの思い通りになって嬉しい。」
「?」
骸はすぐ横にぴったりくっついている渚を見下ろす。
「人混みとかじゃなくて、こういうとこで二人きりでいたかったから。」
骸はそっと渚の頭を撫でる。
すると微かに香ってくるシャンプーの香りがまた凍える体を暖める。


ゆっくりゆっくり、雪が落ちる。

静かな空間に二人身を埋めていくと、

微かに神社の方が騒がしくなってくる。

いつの間にか閉じていた目を開ける渚。

あ、

「あと二分だ。」
骸がまた頭を撫でる。
「…今年はありがとうございました。」
渚がにこやかに挨拶する。

「僕も、…来年もよろしくお願いします。」
そう言い合うと

20秒。


今年があと20秒で終わる。
15秒。


来年があと15秒で始まる。


10

神社からのカウントダウンの声が大きくなる。

9

今まで以上に緊張する。

8

骸が渚の耳元に唇を近づける。

7

骸は渚の腰に手を回す。

6

そして



5

渚、

4

愛してます。

3

だからきっと、再来年には

2



結婚しましょう。



1




言葉を理解する前に、骸の唇は渚の唇と重なっていた。


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