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クリスマスムードの世間。
街はもう赤と緑の装飾だらけ。
クリスマスを明後日に控えた学校は今日で終業式だ。
それは骸の大学も同じだ。
「もう少しでクリスマス…」
そうつぶやく唇は頬と同じ艶のあるピンク。
その長いまつげで飾られた大きな目はある人物を探す。
その対象を早くも見つけ、唇をきゅっとしめる。
「おはよう。」
「…おはようございます。」
彼、骸は小さくため息をついてから挨拶を返す。
「今日も寒いね。」
骸はええと短く返す。
「ねえ、聞いていいかしら?」
彼女、ミリアが骸を覗き込む。
「クリスマス、一緒に過ごさない?」
「……。」
骸は黙って歩き続けるが
「ふふっ…。黙ってるってことはOKてことよね?」
ミリアがそう言うと
「申し訳ありませんが、先客がいますので。」
ミリアは骸を追う足を止める。
「渚って子…よね?」
「……。」
骸は黙ったまま。
「骸君、本当に私のこと嫌いになったの?」
ミリアが聞くと骸は振り返る。
「君を嫌いになったわけじゃありません。ただ僕にはもう新しい恋人がいるんです。」
「じゃあ…」
ミリアは胸を押さえて骸に言った。
「いつだっていい…!いつになったっていいから…、私のところに戻ってきて…!」
骸はミリアのその言葉に目を見開く。
そしてミリアは訴える。
「私、あなたの二番目でも三番目だっていい…!私には骸君しかいないの…!」
涙をこらえて訴えるミリアに骸は、唇を噛む。
「すみません。僕には渚が…」
「渚、渚って言うけど、骸君が本当に結婚したかったのは私なんじゃないの!?確かに私はあなたを裏切ってしまった。けど、私だって好きで選んだ道じゃなかったよ…!」
「え…?」
骸はミリアを見つめた。
「愛の告白も、プロポーズの言葉も、みんな骸君が言ってくれたことじゃない…。」
「ミリア…?」
「私、パパが勝手に決めた約束で結婚させられたの…!でも、私に
私に女としての機能がないとわかったらあっさり捨てられたのよ…!」
「は…?」
骸はミリアの肩を掴む。
「なっ…話しが唐突すぎてわかりません…!」
ミリアはついに涙を溢れさせる。
「だから、パパの決めた結婚相手と嫌々結婚して、
私が子供を作れない身体だってわかった瞬間離婚届出されたの…!」
ミリアが涙を溢れさせるのを見て骸がミリアを抱きしめた。
「何で早く言わなかったんですか…!」
ミリアは抱きしめてくる骸に驚いた。
「私のこと、抱きしめていいの…?」
「っ…!今僕が質問してるんですが。」
骸がミリアの言葉でミリアを離そうとしたが、ミリアが腕を回し離そうとしない。
「私のこと愛してくれてたんでしょ!?私だってあなたをまだ愛してるわ!」
ミリアの涙に濡れる顔はやはり骸は苦手で
「……」
骸はどうしていいかわからず、ただミリアを見つめることしかできない。
「ミリア…」
やはり一度本気で結婚を考えていた相手だ。
やはり一度本気で愛した相手だ。
心が揺らがないはずもなかった。
「渚ちゃんはお金もあるし、可愛いし、…健康な身体だから困らないじゃない…!」
「ミ、ミリアはミリアです…!渚は渚で色んな苦労が…」
「やっぱり…」
骸はえ?とミリアを覗き見る。
「健康体じゃなきゃダメか…」
「そういうこと言ってるんじゃ…!」
「じゃあ…!」
ミリアは骸をまっすぐ見て言った。
「私と渚ちゃんどっちがいいの…?」
骸はミリアを見る。
今、ミリアの泣き顔で渚の顔が思い出せない。
骸が黙っていると
「お願い、クリスマス…クリスマスだけでいいから一緒に過ごして…お願い…お願い…!」
骸は
「…じゃあ、10時半にこの大学で待ち合わせしましょう。」
とミリアに約束した。