01
この狭いアパートにようやく帰ってきた土曜の夜10時。

バイトが終わり、さっさと風呂に入ろうとポストを怠げに開けるとたくさんの郵便物にまぎれたお洒落な封筒。

「うそ…?」
それは親戚の中で唯一と言って行いほど優しくしてくれたお姉さんが結婚したという。
高3になって結婚式に誘われた。
あまり自分の結婚は意識していないけど、お姉さんの結婚式なら楽しみだと家に入った。



風呂から上がって招待状をもう一度よく見る。
「あ、そうだ…」



渚はあることを思い出し押し入れを探す。
狭いし小さいからすぐに見つかったそれ。
綺麗な薄紫のワンピース。
パーティー用に着なさいと亡くなった祖母が渚に買ってくれたものだった。
「着れる日が来てよかった…」
大好きな祖母の優しい笑顔を思い出した。










渚の家系は所謂エリート。
とりあえず金持ちだ。皆社長やら秘書やら気持ち悪い程出来の良い人間ばかり。

だが、渚の親である父は辛うじて父の父である会社にコネで働かせてもらってる。
はっきり言ってちゃらんぽらんで働く能力も他の兄弟であるおじさんやおばさんよりは全然使い物にならないだろう。
仕事のない日はパチンコだの酒に溺れるだので母にも逃げられ、渚も一人暮らしをはじめ一人になった父は最近祖父にさえ見離され始めていると聞いた。

普通の家庭より少しだけ裕福な渚の家だが、渚は父も親戚もどうも気に入らないので一人暮らしをしている。

渚が出た後から父は働くようになったと聞いたが、
早く鈴鹿の名前を捨てたいとさえ思っている。

父のこともあって他の親戚からは冷たい目で見られている。

"本家"が渚の家だから余計なのだ。
長男であって家族さえちゃんと見れない父が大嫌いなのだ。


その面では自分も早く結婚したいと思っていた。







でも、あまり"結婚"なんかに幸せなんか期待してないのだ。




ベッドが軋む音と激しい息遣いが静かな部屋に響く。



「…っ、……は、…っ!っっ…」
気持ち悪い。
セックスなんて何がいいのかわかんない。

たまにエッチなDVDを見ながらやったことあったけど、あんなに声でない。
怒られるから"タイミング"になりそうだったらだんだん声をわざと上げる。
たぶんAV女優もわざとらしいから声出してんだろうけど。

気持ち良いって聞くけど全くそれに繋がらない。

横目で時間を見ると時刻は2時。

「っ…オイッ!…」
声出せよと言うように激しくなる腰つき。
明日もバイトあるのに。

「んっ…あっあぁ…!」
言われてからわざとらしく声を上げる。

"それ"が渚の中に出された感覚に震える。
生暖かくて"注がれてる"感が本当に気持ち悪い。

呼吸だけが"普通"に荒くなる。
あたしにはただ苦しいだけだ。
すぐにベッドの横の棚にある薬を取り出し呑み込む。

「明日バイト何時からだっけ?」

「明日は一時から6時。明日は楽な方だわ」
「ふぅん。」
彼氏である吉徳は自分から聞いてきたくせにもうすでに携帯をいじっている。
金曜日から日曜日までは渚の家に泊まり込む。
浮気はしない奴だけど、束縛が渚には重かった。
束縛するくせに渚の話は聞いてくれない。

渚は呆れ半分に短いため息をついてベッドに横になった。




そして吉徳に朝ごはんを作ってやりバイトの用意をして家を出た。
明日も学校だというのに今日も泊まると言って吉徳はうちに泊まった。
典型的なダメ男にダメ女だ。


そんな忙しい毎日が過ぎ、結婚式当日になった。

日曜日だったため、吉徳もうちにいた。

「他の男についてくなよ?」
と、ぐぎゅうと太ももを揉まれる。
「痛いなやめてよっまた痣できたらヤダから。別に大丈夫でしょ。あんな金持ちばっか集まるとこで相手にさえされないって」
ふうんと化粧する渚を冷たい目で見る吉徳。
「じゃあそろそろ出るね。お昼は電子レンジの中にあるから。」
行ってきますと言って家を出た。

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