33
「んー…」
暑さで渚が布団の中でもがく。
骸だ。
まるで渚が抱き枕かのようにしっかり腕を回している。
手をどかし、ようやくベッドからおりた。

洗面所に行き、顔を洗う。
鏡を見て自分の顔を見るが、瞬間昨夜のことが脳裏をよぎる。

逆光"など"ではっきりとは骸の表情は見れなかったけど、
時折見えた骸の表情とか、熱とか動きとか。
それが骸というだけでこんなにもソワソワする。

以前は頭がぼうっとしていてあまりわからなかった。

「な、何考えてんだ…」

そこへ、
「あ、おはようございます。」
「おはよう。」
渚は顔を洗う骸の背中を見てから歯磨きをする。
骸も同じく歯磨きをする。
骸が渚の家に泊まる時用に買ったものだ。

それからいつものように朝ご飯を食べた。

今日はもう月曜日だ。
「……。」
渚は皿を洗いながら骸に聞いた。
「骸何時に出るの?」
多分今は八時くらい。
なんだかんだもう二人きりで過ごせた時間がもう終わってしまう。
「九時に出ます…。」
骸の声も少し覇気がないように聞こえる。
「そっか…」
またすぐ会える。
遠距離恋愛なわけでもないのにこんなに離れることが嫌だ。
わがままで自分勝手なのは分かっているけど。

途端に話す言葉がなくなった二人はただただテレビに見入ってるだけだ。
「渚は…何時頃でるんですか?」
「あたしも骸と同じ時間に出ようかな」
もうすぐで出る時間。
二人は出かける用意をして、渚のアパートを出る。
近くの公園までは一緒の二人。
公園に誰もいなかった。
骸はいきなり渚に手を合わせて
「渚。もしよかったら、渚の部屋の合鍵を僕にください!」
「え、」
「渚がアパート暮らしをいつまでできるかわかりませんが、僕が出入りするのが嫌じゃなければ…。図々しいことはわかっています!」
「……。」
渚は少し考えたあと、
「ごめん」
骸の動きが一瞬にして止まった。
「ごっごめん…あたしも骸に合鍵渡したいってずっと考えてたんだけど…」
じゃあどうして…というように渚を見上げる骸に渚は
「ここで簡単に骸に合鍵渡すのって…本当にいろんな人に申し訳ない気がして…」
骸は少し落ち込みながらもぐっと飲み込んだ。
「そう渚が言うなら、僕も渚の意見に賛成します。」
「でも、骸のことは誰よりも信じてるから…。うちに来てくれる日はいつでも言って。お茶くらいなら用意して待ってるから…。」
渚は、骸に勘違いしてほしくはなくて、それだけ伝えた。
「わかってます。」
落ち込んでいた骸も渚の言葉で気分がよくなり微笑んだ。
「じゃあ今度は渚がうちに泊まりに来てください。」
そう言って接近してくる。
後ろの木を背もたれにし、渚に迫る。
「あ、朝から何よ…!」
「行ってきますのちゅうに決まってるでしょう。」
「だっ誰か見て…」
渚が誰かみていないかあたりをちらちら見るが
「鳥と猫が見守っていますよ」
と、強引にキスをしてくる。
「へんたい…」
「そんなへんたいな僕が大好きなんでしょう?」
渚は小さく小さく頷いた。
骸は微笑んで
「大丈夫です。また夕方に電話します。」
「…うん。」
骸は名残惜しそうに、でもちゃんと頷いた渚にまた軽くキス。
「じゃあ行きますね。」
「…また。」
そう二人手を振った。

















「おはよう骸君。」
ミリアだ。
「おはようございます。」
骸は動揺を隠しながらすれ違う。
そう言えば渚にはまだ話していなかった。


ミリアにあの不良男子二人を一言で辞めさせることができたのは彼女の祖父がこの大学の理事長で、しかしミリアの判断次第ではこの前のような事もないこともないのだ。
だから渚の受験を受け入れてくれるかどうかが心配になってきた。

渚にこの大学を勧めた時は彼女が帰ってくるとは知らなかったから。

「ねえ、今度お茶しましょうよ…?」
彼女は自分を裏切ったことなどなかったかのようにすり寄ってくる。

「やめてください。」
彼女はつまらなさそうにして、
「ねえ、あなたの彼女…名前はなんて言ったかしら?」
骸は無視し、一時間目に受ける授業の教室に向かっていたが、
「鈴鹿渚。鈴鹿家の一人娘。」
ぴたりと脚を止めた。

「な…」

「たくさんのお金持ちから縁談のおさそいが来てるのね。びっくりしちゃったわ。」
「何を言ってるんですか?」
ミリアは骸を見つめて言った。
「お金なの?お金目当てなんてなんにもいいことないわよ?」
急にすがってくるミリア。
「生憎ですが、僕はそんな理由で彼女といるわけじゃありませんから。」
そう言って骸はミリアの腕を振りほどいた。
そしてミリアを置き、角を曲がって消えた骸。

ミリアは胸を抑え、静かに涙した。



骸はそんなミリアの姿に少し心が揺れてしまったのに気付かなかった。










「じゃあ、鈴鹿。来週とりあえず面接だ。試験勉強もだが、面接は特に気合を入れて普段から何を聞かれてもちゃんと答えられるように練習しておけよ。」
「はいわかりました。」
ついに来週へと大学の面接試験日が迫っていた。
絶対受かりますようにと夕陽に願う。

その瞬間、あの文化祭の日にミリアが不良男子生徒二人にあっさりと下した言葉が引っかかった。



ミリアがあの大学に深く何か関係がありそうで、
嫌な予感がした。

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