30
帰宅すると携帯に着信。
普段着信などあまりない。
骸からだろうかとわくわくしながら携帯を開くが
「え…」
携帯のスクリーンを見て渚は少し気が重くなりながらペアキーを押した。
「もしもし…?」
少しの間があいたあと、低い声が気まずそうに渚の名前を呼んだ。
父だ。
『渚か…?』
親戚のお姉さんの結婚式で会った時以来だ。
「何?」
『ああ…。もうすぐお母さんの命日だろう?』
お母さんとは、母型の祖母…おばあちゃんの命日が間近だということだ。
「あぁ…。それで連絡してきたの?」
『まあ、そうなんだが…。渚、墓参りあとに外食でもしないか?』
渚は少し考えこんだあと
「…うん。いいけどさ…」
『そうか…。じゃあまたあとでな。』
「…うん」
父のあの自信なさげな、冴えない喋り方が昔から気にくわなかった。



そして祖母の命日。
渚は父より一足早く着くよう家を出た。
すると、骸から着信が。
出ると骸も今日は特に用事もないため出かけようかと誘われたが、お墓参り。
そうつげると
『おばあさんの…?』
「うん。」
骸は少し間を置いてから
『僕も行っていいですか…?』
まさかの骸の言葉。
「うん。ぜひ」
再会したときから何だか引っかかっていた骸の祖母への想い。
今なら聞けるかもしれない。






秋の青空は何だか暖かいのに寒い。
墓石を洗い、花と線香を。
渚は手を合わせ静かに祖母に心で話をした。
骸はそんな渚を見つめる。
しばらくその光景が続いたあと、渚がようやく目を開けて立ち上がる。
「おばあちゃん、紹介遅れたけど骸お兄ちゃんだよ」
"お兄ちゃん"という久々の響きに骸は何だかくすぐったくなる。
「…何ボーっとしてんのよ。おばあちゃんに挨拶くらいしないと。」
「あ、そうですよね」
骸は少し緊張した面もちで
「六道骸です。幼い頃はお世話になりました。」
渚はそこで疑問。それをぶつけた
「骸おばあちゃんのこと覚えてたの?」
骸はゆっくり渚を見た。
「…しっかり覚えてました。」
「何で忘れてたふりしてたの?」
骸は宙をみて
「渚のおばあさんは優しくて、大好きでした。」
骸はまた宙から渚にゆっくり視線を戻した。
「でも、僕はおばあさんが亡くなったことを聞いたときから君たちとの楽しかった記憶を消したくなってしまって…。」
「な、なんで…?」
「ただ単にショックが大きくてだと思います。おばあさんを思い出すと同時に昔の思い出も思い出してしまって、胸が痛くなって…それで話に触れたくもなくて嘘をついていたんです。」
「そう、なんだ…」
そんなに思い出を大切に思ってくれていたことが嬉しかった。
祖母とのことをそんなに大切にしてくれてることが嬉しかった。
骸はそれと…と続けた。
「僕は大人になるにつれ、"僕たち"と"庶民"との境界線をいつも気にしていて…。
渚と再会したときにその境界線を感じてしまって、ついトゲのある言い方をしてしまいました…。ごめんなさい。」
骸が渚を見つめて頭を下げた。

「…今は、その"境界線"は…?」
「渚との間にあった境界線なんか最初のうちだけでした!今は本当に渚を大切に感じています!」
骸が必死なほどに言ってきた。
「なら、いいよ。」渚はそれだけ言って墓石に向き合った。
そんな渚の横顔を見て、骸も墓石に向く。
「渚知ってましたか?」
「何が?」
渚が骸の方を向く。

「僕たち許婚の関係なんですよ。」
急な緊張で声が少し震えた。
「いいなずけ…?」
渚の顔は一気に赤くなる。
「なっ何よそれ!全然知らなかったよ!」
真っ赤な顔に涙目で骸に問い詰める渚。
「嫌ですか?」
渚は一層顔を真っ赤にして
「嫌じゃないけどさあ!」



「昔の話だよ…。」
ピタリと渚の動きが止まる。
骸も眉をひそめて声の方を見る。
が、すぐに眉間のシワを取る。
「久しぶりだねえ骸君。お父さん元気か?」
「お久しぶりです。はい、父も元気にやっています。」
深々と頭を下げる骸。
「昔の話って何よ?」
渚が眉をひそめて父に問う。
父は線香と花をおき、手を合わせる。「……。」
問に答えない父の背中を睨む渚。

「じゃあ骸君も一緒に食事行こうか…」
「はい。ぜひ」
「……。」









普通のファミレス。
渚がここがいいと言ったからだ。
注文し終わって渚が先ほどから不機嫌なため沈黙。
が、骸はまず渚の父に報告しなければならないことがあった。
「あっあの…!」
「?」
骸は渚の手を握り、
「報告が遅れてしまいましたが、渚さんとお付き合いさせていただいています!」
渚が父を見る。
が、父は
「うーん、まあさっきの話聞いてればわかるよね。…ところでいつからなんだ?」
そんな不真面目な対応の父に苛立ちを感じる渚。
「8月下旬です」
骸に父はまたうーん、とうなって
「そうか。…聞いてもいいかな?」
「どうぞ」
「渚のことすごく大事か?」
骸は即はい。
それを聞いて父は
「そうか…。なら2人に悪い情報がある。」
「はい…?」
「……。」
父は鞄から写真を取り出す。
見せられたのは、中年男性の写真。
「渚。お前来週この方と食事に行ってきてくれないか?」
「は…?」
「お前のこと大層気に入ってくださってな。見合いをしたいそうなんだ。」
「え…」
「何言ってんの!?」
父の困ったような眉が本当に苛々する。
「あたし18だよ!?見合いって何よ…!」
「鈴鹿さん…僕もこんな話聞いて黙っていられないんですが」
骸も強い視線で父を見る。
「この方が気に入らないのか?なら違う男性からも…」
「そう言う意味じゃないの!ねえ、お父さんあたしのことちょっとは考えてよ…!」
それを聞くと父は珍しく鋭い目つきになり
「なら家に帰ってこい。」
「…っ」
しばらく沈黙していると、料理がきた。
骸も渚も食欲とかそんなのなくて、

父を心の底から嫌いになった。

|

[しおりを挟む]
[Back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -