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ついに文化祭当日になった。

さずが大学の文化祭とあって高校の文化祭よりもはるかに来客人数も多い。
渚は骸の通う大学に入ったとたん胸がドキドキした。

「いらっしゃいませぇー!」
と言いながら渡されたのは学校案内。

骸は午前だけ文化祭活動していると言っていた。

たしかホールステージで演劇をやると言っていた。


そしてホールに向かう途中、この学校の生徒だろう、女の人たちが
「ねえ!六道先輩演劇だってさ!」
「知ってるし行くに決まってんじゃん!」
きゃーきゃーと盛りあがる女生徒グループ。
周りを見渡せばパンフレットだろうか?

演劇という大きな文字の髪を持ってる女の子たちが目立つ。


ホールについて学校案内をもう一度見てみると開演は11時半から。

もうすぐだ。
と思った瞬間、ブーッと聞きなれた音がした後、

『えー…お客様にご挨拶と注意を申し上げます。』
骸の声だ。
そう思った瞬間、
きゃぁああああああああ!!
っと女性群の黄色い悲鳴が。
その熱狂ぶりに恐怖さえ抱いた。

骸の姿はまだないが、マイクで注意事項などを話しているのに全く聞いていない。

客のマナーの悪さか、ただの自分の嫉妬かわからないが、苛々してしまった。


途中で声が女の子に変わった。

その途端にざわめきは治まった。


ようやく話を聞ける状態になって聞いているとどうやら骸は[白雪姫]をやるらしい。

骸がメインなのはとっくにわかっていたが、なんだか寂しい。

と、演劇が始まった。

やはりラブストーリーなだけあって渚としては見てられなかった。

ヒロインの女の子はとても可愛くて演技も上手だった。
時折お互い目配せしたりするだけで気になった。

そしてラストシーン。
眠ってしまった白雪姫に王子がキスするシーン。

となりに座って見ていた女の子二人組がこそっと話をした。

「まさか本当にしないよね?」
「するわけないでしょ…。」
渚はその女の子たちの話に自分も一緒にうなづいた。
そうだよ。まあするわけないし。
ドキドキしながら見ていると

「まあ…本当にあの二人が恋人同士だったら話は別だけど…」
ぽそりと聞こえた言葉に渚はむっと眉をひそめた。

「姫…どうか僕の口づけで目を覚ましてください。」
彼の口調そのものである敬語で
彼の姿そのものである表情で

遠くで本当の恋人である自分が見ているのが辛いなんて


骸、いや王子は白雪姫にそっと顔を近づけて止めた。

ふあっと息を吹き返した白雪姫。

周りの女性群がほっとため息をつく。



白雪姫もため息をほっとつき
「王子様…愛しているわ…」






「…!?」


女性たちの悲鳴が響いた。
渚も驚きのあまり鳥肌がたつ。

本当にキスしやがった。


そこで幕が下りた。


茫然とする男性客と、泣きながら帰る女性客。

泣きたいのはこっちだ。




渚はホール入口の階段に腰掛けて待っていた。
30分ほどすると、演劇に出ていた人たちが出てきた。

見るとあのヒロイン役の女の子も。
だが何故か泣いている。
「元気だしな。ね?」
「ぅえっええぇ〜ん…」
まるで小学生のような泣き方だ。
そしてそれからまた30分待っていると
「渚!!見つけた…!」
全身汗だくの骸がみんなが出てきた方とは違うところから来た。
「どこいってたのよ」
やっぱり腹はたったままで、つんっとそっぽを向きながら言った。
「あの…さっきのは…」
「どこいってたか聞いてんの」
「えっと…着替えて後片付け手伝って、渚探してました…」
「……」
骸は少し困ったように笑って、渚のとなりに座った。

「…何か言われたの?」
「彼女に?」
決まってんでしょなんて心の中で怒りながらこくんとうなづく。
「幕が閉じた瞬間好きって言われましたよ」
またそっぽを向くと
「でも、渚に見られちゃったと思って本気で怒ってしまいましたよ…」
またきっと苦笑いしてるんだ。
「泣いてたよ…彼女」
いいの?なんていじわる気に聞くと
「いいんですよ。」
「なんて言ったの?」
骸はまた笑った。
「もう二度と話しかけないでくださいとだけ…」
酷いでしょう?
と骸は言いながら渚の頭を撫でた。
もうとっくに苛々はなくなっていた。
でも、こんな嫉妬も痴話げんかも嬉しくて
「女の子の敵なんだねあんたは」
そう言うと骸はクスリと笑って、今度はぴったり身を寄せた。
「つまり渚の見方ですね」
肩に顔を埋められ、くすぐったくてつい笑ってしまった。
もうとっくに機嫌がなおっていたことは骸にはお見通しだったようだ。

しばらく話をしているとだんだん女性たちの注目が集まってきた。
渚はうまく骸との距離を開けたが、骸がすぐにぴったりくっついてきてしまう。
女の子たちの視線が痛い。
「ねえ、骸もうちょっと離れて」
「何でですか?」
小声で女の子たちの視線のことを言うと
「わざと見せてるに決まってるじゃないですか」
きょとんとした顔で言ってくる。
「だっだって怖いんだもん…!」

骸はまた笑い
「僕の隣にはもう渚がいるって見せておいた方が渚のためにもなりますよ」
そう言うがやっぱり怖い。
「大丈夫です」
「何が?」

「君は僕の自慢の彼女です。」
そう言って骸はみんなの前でキスをした。熱い顔を俯かせながら言った。
「みんなに紹介…してほしい…」
骸は嬉しそうに笑って
「じゃあ文化祭回りましょう」

賑やかな正午。

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