25
トンボが飛び交う季節になった。

8月31日。
今日で夏休み最後だ。
暦ではとっくに秋。
受験生ということもあり、あまり出かけたりはしていなかったけれどやはり夏休みが終わってしまうのは悲しいものがある。
そんな最後の日。
渚は最後だしと、1日家でゆっくりしていた。
勉強道具も今日は触れてさえいない。
夕方のニュースを見ていると、携帯が鳴った。
スクリーンを見て、骸の名前が表情されているのを見るとすぐにペアキーを押して骸の声をまった。
『…もしもし?』
「もしもし。何?」
『実は、再来週僕の大学でも文化祭があるんです。遊びに来ませんか?』
大学の文化祭…
「行きたいな。もうバイトもやってないし、行く。」
そう言うと骸は喜んで、日時を教えてくれた。
電話を切ると同時になんだか緊張した。














夏休み明け。
渚は学校が少し億劫だった。

「渚ちゃんおはよー」
「鈴鹿おはよ」
クラスの人たちに変わりなくてホッとした。

だが、今日の放課後。吉徳の友達とすれ違う。

その男子生徒達の視線が背中にじりじりと感じられた。


騒がしい面子だからきっと早いうちに広まるだろう。


渚は小さく溜め息をついた。










数日後。
土日を挟んで月曜日の登校日。

やはり変に視線を感じる。
これが嫌だったんだ。



渚の学校では渚のカップルは割と目立っていた。
出来もよく、ルックスも成績も人当たりも良い吉徳と
少しクセのある渚とのカップルは注目されていた。

密かにだが吉徳のファンクラブがあるということも知っていた。
きっと今頃告白されまくっているのだろう。

その反面、渚は哀れみだったりざまあみろという視線すら感じる。

またそれにはあと溜め息をついていると
どんっと誰かにぶつかった。
「ごめ……あ、」
「痛ったぁ〜…あ。」
文化祭の時の彼女だ。
彼女は渚を見るとにやっと笑って。
「あれ?渚ちゃん。吉徳君とは一緒じゃないの?」
「……わかってるんでしょ。」
そう言うと、彼女はあはっと笑って。
「かわいそぉ」
そう言いはなった。そして続けた。
「捨てられちゃったんだねっ」
そう言って彼女はるんるんで行ってしまった。
何とでも言えばいい。
何とでも…。

「……。」



その日の放課後。
またも吉徳のグループに出くわした。
しかも吉徳もいる。
ふざけあって歩いているから後ろを歩いている渚とはどんどん距離が縮む。
渚は吉徳にバイバイの挨拶だけでもすればいいだろうと、緊張しながらも吉徳達のあとを歩いた。

そこそこの"元"有名カップルが…と、周りにいた帰路につく生徒達がちらほら気にしているが、吉徳達は気づいていない。

渚がバイバイとだけ言おうとすると

「なあ吉徳。」
先に吉徳の友達が。気にせずまたバイバイと言おうとするが
「鈴鹿のこと…」
ピタリとあしが止まった。

「んー…?」
とたんに力ない吉徳の声。
「未練とかあんの…?」
吉徳は
「ないことはないよね。」
ははっと笑った吉徳の表情は見えない。

どうしよう。
話しかけづらくなってしまった。
たった一言でさえ。

そんな渚がいることも知らない、
デリカシーのない吉徳の友達は

「ぶっちゃけ吉徳がフったん?」
吉徳が一瞬止まった。
が、
「うーん。あのね…」
吉徳が何か言おうとしてた。
が、

「こっちがフられたの。」
自分が先に話していた。
「え…?」
「うぉっ!?」


「渚…?」

吉徳が振り返った。
久々に見る吉徳の顔。
プリクラも写真も数少ないプレゼントも全部捨てた。

けど、吉徳の顔だけで胸がいっぱいになってしまった。

「あたしが浮気したからフってもらったの。どお?可哀相でしょ」
堂々と言ってやった。
周りのギャラリー達も驚き、吉徳が好きな女の子も一人二人いたようで、はあ?という声が聞こえた。

「じゃあ、バイバイ」
軽く。
ほんの挨拶のように言った。
言えたはずだ。

吉徳の姿が視界から消えた途端、あー…だめだと思った。

が、そうなる前に
「渚」
振り返らず歩き続けた。

「ありがとう…」
吉徳の声が震えてた。
渚は校門を出ると走り出した。

走って走って走って

家の近くの公園についたとたん脚がガタガタで、息が苦しいことに気づいた。
水道の蛇口をひねり、顔を洗った。

「はぁはあっはあっっ!っっ…ぁ!!」
息が苦しい。こんなにダッシュで走りつづけたらそうだよな。

いや、
「キモ…」
自分のてのひらをみた。
自分が気持ち悪いと思った。

吉徳を立てた。
というまではいかないが、

フったのが自分の方だと、
吉徳自身の友達、
吉徳が好きな女の子、
その他大勢の前で吉徳を"フられた"という立場に置かなかった自分が気持ち悪かった。


吉徳のありがとうがすごくつらかった。
自分はそれ以上のことをした。

「なにっ…!?自分だけ記憶に残させたいの…!?」
てのひらに問う。
狡い女だ。
もっと狡いのは



フっておきながら、吉徳の顔をみただけで心が動いたことだ。
こんな自分が醜くて
恥ずかしかった。



家に帰り、残っていた吉徳の生活用品すべて捨てた。
心の隅にやっぱり


骸がいたから。


自分のためにも
骸のためにも
吉徳のためにも


すべて吉徳の形跡をなくした。
そして夜思い出して泣くと
朝にはスッキリした。

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