23
こくん、と静かに渚が頷いた。
周りのカップルがみなキスを交わす。
別にジンクスとか、ロマンチックでこんな告白に憧れてはいなかった。


だけど、すごく嬉しくて、この胸の高鳴りがすごく幸せで。
そっと骸が触れるだけのキスをしてくれた。
骸が少しだけ顔を離すと渚がふっと笑った。
「典型的かな」
「何がですか?」
「周りのカップルと一緒だなって。」
笑う渚に骸は微笑んだ。
「"普通"じゃ嫌ですか?」
渚はその言葉にはっとした。

きっと自分は無機質な場所でそして親の勝手な口約束で変なおじさんと結婚させられるんだろうと自分の人生を諦めていた。
普通の女の子達にどれほど憧れたか。


「嬉しいよ」
笑うと、骸はまた触れるだけのキスをした。

そして渚の髪を撫で、
骸は渚の頬にキスし、再び唇にキスする。

あまりの骸の愛情表現に、これまでの恋愛経験の渚は少し戸惑う。
吉徳も含め、ここまでの彼はいなかった。
戸惑うと同時にやはり少し嬉しくてドキドキする。

そんな渚に気づいた骸は少し笑った。
「ごめんなさい…。やっと心おきなく触れられると思うと、今まで抑えてた気持ちが一気に…」
弱々しく笑う骸がすごく愛しかった。
渚はそんな骸にキスしかえす。
骸を覗き込み渚が言う。
「あたしからキスすることなんてめったにないんだからね」

骸は弱々しい笑みから照れくさそうな笑みに変えた。

「あの男の子には悪いですが」
「ね」
と笑い合った。


そして、渚から手を繋ごうとした瞬間





「骸君」
その声がした瞬間、骸が渚から少し離れた。
手も繋げなかった。
骸は気づいてなかった。


声の方を見ると、栗色の長くて真っすぐな髪のすごく可愛い女の子が立っていた。
渚の同い年か年下程だろうか?

それにしても
「その子は…?」
渚が今言おうとした言葉を言う彼女。
骸は難しそうな顔をしてから
「彼女は鈴鹿渚さん。僕の恋人です。」
ハッキリ言ってくれた。
そして骸は続けて渚に言った。
「彼女はミリアさん。


…僕の昔の恋人です。」

渚は一瞬ぐらっと視界が歪んだが、それはミリアさんに悪い印象だ。
渚はミリアという女性に笑顔を心がけ挨拶した。
「は、はじめまして。鈴鹿渚です。」
そう言うと、ミリアは渚をじろじろみたあと
「はじめまして。ミリアです。」
と、美しい微笑みを渚に向けた。
でも、やはりミリアは眉を困ったようにして瞳を潤ませる。

「そう、…骸君も私から卒業、か」
へへっ…と力なく笑った。
それが切なくて、申し訳なくなってしまった。
が、骸は譲れない。
それはまた別の話なのだから。

「年はいくつなの?」
ミリアは骸に聞く。
「18になります。」
骸に聞いたミリアは渚が答えると渚を見て、しかし何も言わず、再び骸に向いた。
「もしよかったら今度うちに遊びにきて?」

そう言いながらこちらにきて骸に触れるミリア。
「…今日はこれで。…渚行きましょう。」
骸がミリアから離れて渚を連れて足早に立ち去ろうとした。

が、
「骸君…!!」
ミリアが骸に駆け寄る。
そして骸の腕に抱きつく。
「なっ…!」
「私骸君のことまだ好きよ!」
「っ…」
「えっ」
渚も息を呑む。
渚が骸を見ると、骸は眉間にしわをよせ、
「それは先ほど聞きましたから」
そしてミリアの手をはらい、渚の手を取りこの場をあとにした。














カラカラと渚の下駄の音が落ち着きなく響く。
骸は前を歩いていて表情が見えない。
渚は何を話せばいいかわからず、何がおこっているのかもわからず、ただ骸が行くあとをついていった。

だけど、骸の歩幅と渚の歩幅はやはり差があって、その上もう疲れていた足なので一々つまづく。

が、骸は何かいっぱいいっぱいなのか、そんな渚に気づかない。

結果、

「わっ!」
「!?」
暗い道での段差に気付かず転んでしまった。
考えたらこうやって転ぶのは2度目だ。

「ご、ごめんなさい!」
渚はまた手を深く切ったが、それ以上に転んだときに下駄が脱げ、素足がガラス片で切れてしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」
とりあえず骸は渚を背負い、すぐそこにあった公園の水道で傷を洗い、小さいタオルで傷口を押さえると血は引いた。
「ごめんなさい…。ちょっと混乱してしまって」
渚は骸を見て言った。
「あたしってさ…骸の彼女…?」
「あ…当たり前でしょう!」
骸はすぐに言い返した。
渚はそれを聞くとふっと笑って、

「じゃあ、ちゃんと話してくれない?」
「え…?」
「ミリアさんのこと。あたしだけ全然状況見えないなんて、あんまりじゃん」

「……」
骸は少し思い詰めたように考えて、渚の手を握ってから重い口を開けた。

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