22
「ヤバイっ!早く支度すすめないと…!」
昨夜のことで頭がいっぱいで、午前4時ごろまでは起きていた記憶がある。
泣いて泣いて泣いたせいで寝て起きたときは目の腫れで今日骸とあうのさえ嫌になった。

午後4時。
骸との待ち合わせは6時。
余裕があるようだが、髪型も、化粧も、着付けさえまだできていない。

夏祭り、やっぱり浴衣で行ってみたかったのだ。
だが、去年も浴衣で夏祭りに行けなかった。



『日本の女が着付けの仕方もわからないなんて情けない!』

おばあちゃんの怒った表情が目に浮かぶ。
「本当だね…」
渚は苦笑いした。

そしてパソコンを起動し、着物の着付け方を探して一番簡単にできそうなものを選んで自分で着付けをした。
それだけで一時間。
あと一時間で骸が来てしまう。
まず化粧を浴衣にあうようなほんのりでありながら色っぽくそして薄くする。
そして
「髪型どうしよう…」
まとめ髪は苦手だ。
だけど、簡易じゃつまらないし、おろしてはなんだか浴衣なのに暑苦しい。

また今の時代便利なネットワーク。
それでやり方をとことん調べ、頑張ること20分。
時刻は5時49分。
ギリギリセーフだ。
あとは鏡の前に立ち最終チェック。
ポーズを軽く決め、最後にスマイル!
「ふん。完・璧」

キリリとキメ顔し、そして部屋を出た。

アパート入り口で骸を待った。
待つこと5分。

浴衣の骸がきた。
「あ、…」
お互い浴衣姿に見とれる。
「…じゃあ、行きましょうか」
と咳払いした。
そして

「……」
骸から伸ばされた手。
「……」
お互い無言。
そっと手をそえると、ぎゅっと手を握られ、引かれる。


もう後ろめたさを感じる必要はない。
この胸の高鳴りを抑えなくていい。


渚はそっと骸の方に身をよせた。




まだ少し離れてるというのにもう太鼓の音が聞こえてくる。

でも、2人の距離で高鳴る鼓動も負けじと響く。



やけに今日はお互い口数が少ない。
でも何もしゃべらずとも心地よかった。

しばらく歩いていくうちに段々と人が多くなってゆく。

祭り囃子が並ぶところまでくると歩くのさえ一苦労だ。
ふと繋がれた手が一瞬離れたが、またしっかり繋がれた。

「骸、ちょっと落ち着いたところ行こうか」

そう言うが、繋がれた手は先へ先へ。
人混みはますばかり。

やっとおちついた場所へきた。
と思ったら。

「あ、れ…?」
今気づいた。

「おまえ、だれだ…?」
小さい手。
小さい体。
まあるい顔。

「おばさんだれだ!」
「んな゛っ!?」
6歳ほどの男の子。

くらっとした。






「え…渚?」

あまりの人混みに一瞬手を離しただけであっという間にはぐれてしまった。

電話やメールをするが、こんなどんちゃん騒ぎの中すぐには気づかないだろう。
骸はとりあえず人混みが落ち着いたところに行き、渚を探した。







「ねぇ…ぼうやママは?」
射的に夢中の男の子は渚の質問に答えない。
渚ははぁとため息。

そして射的の次はたこ焼き。
一パック買ってやったが全部ひとりで食べてしまった。
「ママは?」
男の子はやっと渚をみた。
「おばちゃんなんだ?おれにほれたのか?」
「あのね!あんたくらいになったらあたしはおばちゃんかもしんないけど、あたしはまだまだお姉ちゃんなの!!」
強く言うと男の子はがっはっはと笑っただけだった。

またゴミをポイと地面に置いてどこかへ行こうとした男の子に渚はゲンコツをくれてやった。
「いっっってぇーー!!」
「お前、自分の出したゴミはちゃんと自分で捨てるんだよ!親に教えてもらえないの!?」
そう言うと男の子ははっとして渚からゴミを受け取るとゴミ箱に投げ入れた。
行儀が悪いがまあ許そう。

生意気な男の子だし置いて骸を探したいところだが、子どもを夜にしかもこんな人混みに置いてけぼりは人間としていかがなものかと思うので責任もって親に返そう。

こんなくそがきの親の顔が見てみたい。


「ねぇ、あんたなまえなんつの?」
男の子は渚に聞く。
「教えたらおばちゃんて言わない?」
そう聞くと男の子はへんっと得意気に胸を張って。
「言わないでいてやるよ!」
ホントにくそがきめ。

「渚お姉ちゃんて言ってね」
「渚か。変なのー」
「なっ…!良い名前でしょーが!」
言い合いするうちに、憎たらしいほどに可愛く見えてくるこの子。
甘やかしてしまう気持ちもわかるかもしれない。






はぐれてから一時間近くたちはじめて、骸は益々足早になる。
タチの悪いヤツらに絡まれたらなどと、過保護のように変に心配になる。

心配癖がついてしまっているのか、彼女と離れるととたんにソワソワしてしまう。


と、人混みのなかで彼女が足早になって通り過ぎたのが見えた。
ホッとし、すぐに声をかけようとした。
瞬間、

「骸君…?」
鈴のような綺麗で透き通って、でも甘い声がこの雑音のなかでも聞こえた。

すぐにわかった。
「あ…」


言葉が出なかった。
渚のことがすっぽりと頭から消えていた。









「ちょっと、ちょっとストップ…!」
男の子は動き回り走り回りあっちこっち。
渚は履き慣れない下駄で走り回っているため、足に負担がかかっている。
そこで、

「うわっ!」
派手に転んでしまった。
幸い人混みほどではなかったため、ぶつかったりはしなかったが、
「いったー…」
浴衣をかばってへんな転び方をしてしまったため、少し深く手を切ってしまった。

「渚ーだいじょーぶか!?」
男の子はまっさきに渚に駆け寄る。
「大丈夫だよ。でもちゃんと言われたことは聞きな。」
そう言うと男の子はすこししゅんとして
「わかってるよ…。ごめんなさい。」
ちゃんと謝る男の子に渚は感心し、
「よーし。あんたは偉いよ。」
頭を撫でてやると男の子は口をへの字にして顔を赤く染めた。
「お父さんお母さんはあんたが可愛くてしょーがないんだろうね。」
そう言うと、男の子は寂しそうに笑って

「父ちゃんと母ちゃん、死んじゃったんだ。」
「え…?」
胸がドキンとした。

あんまり唐突で、
そしてなにより
あんまり大人みたいな顔つきで、

さっきまで無邪気に走り回っていた子とは別人のようで

「おれ、父ちゃんと母ちゃんと弟がいたんだけど、みんな事故で死んじゃった」
今度は胸がズキンとした。

渚は男の子がホントに愛しくて切なくて
そっと抱き寄せた。

涙が出た。
ホントに涙が出た。
自分でもびっくりした。

ただ
涙が出た。



そこで
「渚!」
骸の声だ。
「渚…良かった…!」
息切れしてる骸が新鮮で。
また涙がでた。
「その子は…?って渚、何泣いてんですか?」
「何でもないし」
そう言うと、男の子が骸をじっとみる。
そして

「おまえだれだ?」
初対面の人にはこうなのだろうかこの子は。
骸はちょっと、ホントにちょっと微かにムッとして
「骸っていいます。」
そう言うと男の子は
「むくろ…変なの」
渚もそれには笑った。

骸にはぐれたときこの子と一緒になったことなど話していると男の子はまた元気に走り回った。
8時半。
花火があがり始めた。

「ねえ、あんた誰ときたの?」
男の子は
「1人できた。」
また胸が痛む。
「家まで送るからね」
そう言うと、男の子は
「ううん。いい。」
と首を横に振った。

「もう帰る。」
男の子はたったと走ったと思うと

「あ、」
おじいさんがいる。
すごくすごく優しげなおじいさんが男の子の頭を撫でる。
「楽しかったかい?」
「うん!友達とずっと遊んでた!」
「え…?」
確かあの子は一人で来たと言っていた。
やけにおじいさんと話してる彼は頼もしくて
おじいさんに余計な心配をかけまいとしてるのがよくわかる。
おじいさんはこちらを見て
「あのお姉ちゃんとお兄ちゃんは誰だい?」
男の子は渚を見て
「おれの女!」
元気に答えた。

「なっ、えっ!?」
骸のその様子をみて男の子は
「あいつはただのナッポー!」
骸がカチンと石になった。

笑う渚におじいさんが
「ありがとうねぇ」
おばちゃんを思い出す。

甘えていんだよ。
あたしにしたみたいに。
心配かけていんだよ。
おじいちゃんに。

「おーいくそがき!」
「なんだー!!」
「しっっかりわがまま言って甘えて心配させるのが、一番の親孝行だぞー!」

そう言うと、男の子はにかっと笑った。
「おれがおとなになったら、およめにこいよ!」
また骸が隣で石になったが、渚は

「その時にはおばちゃんになってるっての!」
おじいさんと一緒に男の子が豪快に笑った。














「何か、あんまり2人きりで居られなかったね…」
花火を見ながら渚が言うと、骸は苦笑しながら
「もう結婚の予約が入っちゃいましたね」
「子どもはすぐ結婚を口にするからなぁ」
渚も笑う。

しばらく沈黙が続く。

骸はそっと渚の肩を引き寄せた。
渚もそっと骸の背中に手を添える。



花火があがった。

骸の唇が渚の耳元に近づいた。


周りにはやはりカップルがたくさんいる。

渚にだけ聞こえるように言われた

その言葉。
短く
明確に伝えられた。

たった一言。























す   き





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