21
夜。
吉徳との別れのあと。
「………」
渚は微かに口を開けて吉徳の去った方向をぼーっと眺めた。
「渚」
骸の一声にはっとする渚。
「あっ…ごめんごめんっ…とりあえず中入って」
「……はい」
渚は骸を招き入れるといつものように冷たいお茶をだしてくれた。
テレビをつけて、渚はそれをみている。
彼女の表情は見えない。
しばらくずっと2人の間で沈黙が続いた。
が、
「…ははっ……」
と、ふいに渚が笑った。
「渚?」
渚はこちらを向いた。
渚は笑ってた。
「…どうしたんですか?」
「……へへっ」
笑っていた。
泣いていた。
まぶたと鼻を真っ赤にして涙を流して笑っていた。
笑っているが、すごく切なげで。
それはきっと"彼"のことで、
やはり存在は大きかったんだ。
「何か、どうしたんだろ…?涙が出て、さ。」
笑顔はだんだんくるしくなってるようだ。
「あんなにムカついてたのに…フって笑ってやるつもりだったのに…」
「……」
骸は渚の髪を撫でようとして、そしていつものようにその手をとめた。
「スッキリしたの。スッキリしすぎて、あっけなくて…」
骸は何も言えなかった。
「もう少しで三年目だったの。初めてなんだよね。半年以上続いたのって」
そうだ。
色んな初めてがあった。
男女の行為。
恋の苦しさ、楽しさ嬉しさ。
それが渚にとってプラスなことはあまりなかった。
けど、
「初めてなんだ、…誰かと別れてこんなに寂しいのって」
乱暴で、卑怯で、ずる賢いやつでも、
心ときめくことはたくさんあった。
「自分からフったくせにって感じだよね…」
渚はまた笑った。
でも、やっぱり涙で濡れていた。
骸は渚の中にいる吉徳に嫉妬する。
面白くなくて、骸は自分の嫉妬心を感じ他人ごとのように嘲笑う。
面白くない。
やっと邪魔なものが消えてくれた。
骸はその醜い部分を隠さなかった。
「渚」
「?」
やはり躊躇いがあった。
が、
渚の髪を撫でた。
ふわっと柔らかい髪が心地良い。
渚はやっと微かに"笑ってくれた"
それのおかげで嫉妬心は和らいだ。
「後悔してるんですか?」
渚は首を横にふる。
「迷ってるんですか?」
渚は首を横にふる。
「もう僕は行動していいんですか?」
渚は首をそっと縦にふった。
骸は微笑み、
「明日、祭りで心おきなくデートをしましょう。」
「うん」
渚は嬉しそうだった。
ただ、やはり吉徳への罪悪感もまた残っているようだった。
「もう、これからは誰にも縛られず、気にせず一緒にいられます」
「うん」
骸はまた微笑みお茶を飲み干すと渚のアパートをあとにした。
渚の吉徳への気持ちを突きつけられた。
二年間の彼の存在は渚の中でやはり大きかった。
が、
身が軽い。
渚や吉徳には悪いが、嬉しくて嬉しくてたまらない。
やっと
やっと我慢を捨てられる。
ごめんなさい。渚、吉徳君。
骸は高鳴る胸を抑えた。
今日は寝付けないかもしれない。
明日、祭りで彼女に会う。