20
ランチを告げる鐘が鳴る。
5月。一学年の生徒達は輪を作ろうと必死な時期だ。

みんなが変に笑って食堂へ行く。
そんな中、女子生徒が一人下駄箱で靴を履き替えていた。
「鈴鹿さん、帰るの?」
「あ、うん…。ちょっと具合悪くて…」
「何で?」
「何でって…始めたばっかりのバイトにまだ慣れなくて…」
「へぇー。バイトしてんだぁ。偉っ」
「……じゃあ」

第一印象はクールか、暗いか大人しい。引っ込み思案。
だった。
見た目は好みだったけど、いかにも苦手なタイプの女。


第一印象はよくいるクラスの馬鹿男子。お節介焼き。
だった。
名前も覚えてなかったし、嫌いの類いだ。




この会話が最初で最後だとお互い思った。








ある日、クラスも落ち着いてきた7月。
夏休み前だった。

クラスでの仲良しグループはもうだいたい決まっていて、クラスに浮く奴も一人二人でてきた。
そのうちの一人が鈴鹿渚。
大して嫌われてるわけではないし、一部の男子には人気があった。
だが自分は苦手だったから近寄らなかった。


文化祭の役割決めの日。
クラスのやつらと自分で、喫茶店をすることになった。


だが、メニューやら何やらを決めるのは難しく、思うように準備が進まず、クラスが重い雰囲気になった。
一度改めてちゃんと話しをしようと時間を作った。

「もう時間がない。このままだと何も出せなくなる。みんな良い案はないか?」

彼女が手を挙げた。

「鈴鹿さん」
鈴鹿は立ち上がり、先生に言った。

「もういっそ何も作らない方がいいです」
クラスがざわめく。
先生も少し動揺している。
「鈴鹿、何言ってるんだよ。喫茶店だぞ?」

「ちゃんとした店舗の…ドーナツか、お菓子か、パンか。何かを取り入れてジュース、ドリンク、カフェインとかは自分たちで動けば申し分ないと思います。」
納得というように生徒、先生がうなずく。

「こんな間近まで頭悩ませて、やっと自分たちでメニュー決まっても、実際作って売るのはこのクラスには向かないと思います。管理もまともにできなかったら当日お客さんに迷惑がかかるかもしれません。」
クラスが静まった。
「店舗からの取り入れなら、渡すだけだし、店舗の信用だって確かならば客も入るし、効率はいいと思います。」

しばらくの沈黙のあと、一人、二人、三人と、鈴鹿さんの意見に賛成ですと手が挙がっていった。

自分も挙げたが、流れだった。
何だか彼女にこのクラスを馬鹿にされた気分で府に落ちなかった。


だが、彼女の意見のあとから準備はあっという間に進み、あの焦りが嘘だったかのように文化祭前日は余裕で、学校一番にクラスの準備が早く終わったおかげでその分早く帰れた。


文化祭当日。

「いらっしゃいませー。何名様ですか?はい。こちらで食券購入のあと、あちらで受け渡しになります。」
普段の彼女の姿からは想像できなかった彼女の明るさと笑顔と、元気だがうるさくない声が教室に良く通った。

女性客も彼女の方に引かれていき、
彼女目当ての男性客も多かった。

クラスのみんなは口を開けて彼女をしばらくみていた。


彼女の言うとおり、うちのクラスはみんな動きが少々悪く、あたふたしていたが、
鈴鹿はその分カバーするようにテキパキ働いて、ここはこうするといい、それはこの方が効率が良いと、クラスのみんなに指導すると、みんなも彼女のようにテキパキ動けるようになっていた。

彼女への苛立ちはとっくに消えていた。



夕方、みんなで後片付けをしていた。

水道場で彼女を見かけた。
話しかけようとすると、クラスの女子が彼女に近づく。

「鈴鹿さん、今日すごく格好良かった…。」
彼女はどんなに冷たく流すのかと思ったら、

「そんなこと…。みんなだって良く働いてくれたし…」
と照れているのだろうか、泡まみれの手で自分の頭をかいて笑う彼女。

電気が走ったみたいな感じ。
そのあとから自分の胸の鼓動はずっと早い。

「ふふっ…鈴鹿さん泡っ」
「え…、あ"ぁ"っ!」
女子生徒が彼女のしぐさに笑うと彼女は顔を赤くして困ったような顔で視線を泳がせた。

素直に可愛いと思った。

夏の日だった。


























夜遅く帰ると母がお出迎え。
「吉徳お帰りなさい。遅かったのね」
居間に行く。
「おう、吉徳。」父も二階から丁度下りてきた。
幼い弟の寝顔でも見ていたのだろう。
吉徳は初めて作り笑いした。
「ただいま。」



夕飯も食べた。
風呂も入った。
ぐっすり寝た。


次の日起きると友達からの祭の誘い。

返信しなければ。
先客がいるんだ。
お前らみたいに非リア充じゃないんだよ…。


吉徳は苦笑しながら返信の文を打ちながら声に出した。
「悪い…俺は、渚と………」

打てない。
涙が出て溢れて溢れて。
携帯のスクリーンに涙の雫が落ちる。



激しい後悔が吉徳を襲った。

そして無限ループの自問自答。

何故自分は彼女に優しくしてやれなかったのだろうか。
彼女の気持ちを自分にだけ向かせたかったからだ。

何故身体しか求めなかったのだろうか。
彼女との愛を確かめ合うものだったからだ。

何故彼女に暴力をふってしまったのか。
彼女を放さないためだ。




でも、すべてが何か違っていた。
涙が溢れて溢れて溢れて。

子供みたいに泣いた。

吉徳は連絡先を開き、渚のデータを削除しようとボタンに親指をあてる。
だが、削除しますか?の確認画面を睨むばかりで、親指に力がはいらない。


「クソっ…!!」


吉徳はついに削除ボタンを押した。
途端に気持ちが軽くなった。



「…………………………んな…」


ごめんな。


ありがとな、こんな自分でも大好きだったと言ってくれて。




鏡をみた。
にかっと笑ってみた。




連絡先を開く。
友人に電話をかける。


「もしもーし?今日祭りはナシ!…けど、みんなでカラオケにゲーセンにバッティングセンターに、…いっぱい遊ぼうぜ!」

きっと非リア充も楽しい。

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