19
怖い。
怖くて死にそうだ。

今の時刻は7時。

9時に吉徳がうちに来る。

夕飯とか忘れて、秒針の音を聞きたくもないのに聞いていた。

テレビを付けているが、面白おかしく騒いでいる芸人の話の内容なんて全然聞こえない。


そして、やっと9時近くになった。
が、逆に今度はインターホンが鳴るのが怖くなってしまった。

あんなにまだかまだかと待っていたのに。

身体が震えてしょうがない。

もしかしたら殺されるかもしれない。

聞き入れてくれるきが全然しない。
生きた心地がしない。




ヴヴヴヴッ…

携帯のバイブにビクッと身体を跳ねさせた。

骸からだ。
『今隣のコンビニにいます。しばらくしたらそちらに行きます。』
そうだ。

骸は、吉徳が渚のアパートの敷地内に入ったら渚の部屋の前で吉徳が何かしないかを見ていてくれる。


部屋に一緒に入ると言われたのだが、吉徳と2人で話をつけたかったため、外でお願いした。
暴力振るわれても、渚が骸を呼ぶまでは外で待ってもらう。


大丈夫だ。骸がいる。

大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ。大丈


ピーンポーーン…



びくっ

吉徳だ。
息を呑んだ。


玄関に向かう脚が震えてうまくあるけない。

開けた。

吉徳がいる。

「邪魔するよ」
「…うん」
吉徳は慣れたもので、どかどか入っていく。

「祭り明日行くん?つか暑くねぇ?」
麦茶を自分のマグに注ぎながら言う吉徳。
渚は座り言った。

「吉徳、今日は話があって呼んだの」
「つうか、夕方のあれ何だよ?」
渚は吉徳の質問を無視し
言った。




「別れよう」



怖かった。


「あ"?」
日中までの吉徳への威勢はもうない。

震える。
「今なんつった?」

「別れる…」
ガツンッ

「いっ…」
頭を殴られる。

「痛いのよ!」

渚は震えた声で吉徳に怒鳴った。
が、



「お前本気で言ってんのかよ?」


「…え?」
吉徳は今にも崩れそうな表情でいたのだ。

「俺の何がいけなかったんだよっ…」

渚の肩を掴みながら吉徳が弱々しく言う。
「何がって…」

渚も驚いて拍子抜けしてしまった。
「やだ…!やなんだよっ…!」
吉徳はついに涙を流し始めた。

「あの男なのかよ…?お前は俺よりあの男がっ…」
喉がつまって言葉が出ないようだ。
「…骸がどうとか、…じゃないよ…。吉徳とは、このまま続けていく自信がなかっただけだよ…」
「じゃあ何なんだよ!」
強く渚の肩を揺さぶる。

「それが嫌なの!」
はっとし、吉徳は自分の手を渚の肩から離す。

「自分の思い通りに行かなければすぐ力で押さえつけようとして!もううんざりなの!」
吉徳はびっくりした顔で渚の言葉を聞いた。

「俺の暴力…?」
渚はうんと力強く頷いた。
「じゃあっ…直すから!もうお前のこと傷つけないから!渚!」
「それだけじゃない!」

吉徳は嗚咽を漏らしながら渚を見る。
「あんたはあたしの身体ばっか!うちにくればすぐ身体!あんたはあたしのことただの処理機だと思ってんじゃないの!」
その言葉に吉徳は少しムッとした。
「処理機ってなんだよ!そりゃ、恋人だったらセックスくらいするだろ!」
「でも、もっと他にするべきこととかあるじ
ゃん!お金使わなくたってデートはできるのに!あんたはうちきてベッドで何時間もヤったと思ったら、ぐーすか寝てるじゃない!何が恋人よ!セフレと一緒じゃない!」

言うと吉徳はみるみる小さくなった。
「それに何よ!骸が気に入らないからって、媚薬なんか仕込んで音声録って!卑怯なんだよっ女々しいのよ!」
「なっ…何で知って…」
「わかるわよ!」
吉徳は眉を潜めて
「俺がやったよ。やったけど…俺よりあいつを信じるのかよ?」
渚は
「骸を信じる。」

「……」
吉徳はまた涙を流して言った。
「もう一度聞く…。お前あいつのこと好きなのかよ?」
渚は弱々しく俯く吉徳の質問に一瞬で即答するのに思いとどまってしまった。

だが、


「…好き」

吉徳はくっと喉を鳴らした。
「じゃあ、あいつがお前に暴力振るったら…、セックスばっかり求めてくるヤツだったら…卑怯で女々しいヤツだったら…お前はあいつを俺みたいに振るか?」

渚は首を振った。
「骸はそんな人じゃない。」

「……っ」
吉徳はガシガシと力強く涙を拭う。
「じゃあ…最後に聞くよ………………………。




お前は一度でも俺のこと好きでいてくれたことはあったか?」










「…大好きだったよ……」

吉徳は、擦って赤く腫れたまぶたをみせ、頬の上にまた新しい涙を流しながら渚を見た。

「最後にキスしていいか?」
渚はこくんと首を縦に振った。

吉徳は久々に歯を見せて笑って






…、








付き合い始めた日以来の
優しいキスをした。


吉徳は玄関を出ると骸に気づいた。

「渚」
吉徳が渚の名を呼ぶ。

「お前のこと諦めるわけじゃない…。こいつに飽きたら俺んとこ戻って来い。」
そう言い、吉徳らしく強引に渚を抱き寄せた。

しばらく抱き合って、ばっと渚を離し、吉徳は渚のアパートをあとにした。


星空がきれいな夜だった。

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