16
その翌日。
文化祭三日前に迫っていた。

そして今日はバイト最後の日でもある。
受験生ということもあるが、最後の夏休みは小学生みたいにゴロゴロしていたい。
遊びにも行きたい。
貯金もあるし、言えば実家からも金は入るので元々金には困らないのだが、あまりそうゆう時ばかり家族面するのは人間として何だか恥ずかしい気もするからだ。

渚は最後のバイトを終え、ずっとお世話になった先輩、同僚に挨拶回りを終えると、バイト場を出た。
そして夜道を進もうとすると、

「あの、…」
躊躇いがちに声が投げられた。
男の声だが、何だか小さい声だし、聞き間違いかと思った。
だけど、
「すいません…」
そこでようやく自分に向けられている声だと確信し、渚はふっと振り向くと
「骸…」
あんまり自信なさげな声で、小さな声だったから気づかなかった。

「お久しぶりです…」
「うん。久しぶりだね…。」
と、声を掛け合うほど久々なわけでもなかった。
そんな何週間もあいていないのに、渚にとっては骸にとっては久々なのだ。

「どうしたの?」
「すみませんでした!」
渚が聞くと、骸が勢いよく頭を下げた。
「骸…」
たぶん"この前"のことだろう。

渚も、骸をみて
「あたしこそごめん…」
「え…」

「いくら仲良いって言ったって、彼氏以外の男性と部屋で二人きりとか、…うん。よくないよね。」
それに、と渚が付け足す。

「媚薬かなんか仕組まれたんでしょ?あたしも骸も」
なんとなくわかっていた。
骸が自分を好きか好きじゃないか以前に、
骸は理性をすぐに保てない程動物的じゃないと。

「わかってるから」
「渚…」
吉徳より、骸を信じてるから。

たぶん伝わったはずだ。
すると、骸はまた弱々しく遠慮がちに言ってきた。

「あの…夏祭りの日は空いてますか?」
「え…?」
骸は下を向きながら言った。
「こんなこと言える立場じゃないのはわかってます。でも、もしよかったら一緒に祭りを回りたいなと…」

わくわくした。
すぐに行きたいと思った。


去年まで吉徳と回った祭り。
でも今年は誰とも行かないだろうと思っていた。
だけど、

「行きたい…行く!」
骸と回れる。

骸は嬉しそうに微笑んだ。

だけど、その日はちょうど文化祭だ。
「あのさ、骸がよかったら…同じ日、うちの学校の文化祭見にこない?」
そう言うと骸は瞳を輝かせた。
「行きます!」
骸はまた嬉しそうに笑った。

明日になれば文化祭はあと2日。
楽しみだ。





































そしてすぐにやってきた文化祭当日。


「いらっしゃーい」
この日とばかりに騒がしい中でも渚の声が響く。
「2つください」
「はい!ありがとうございましたぁー!」
看板として選ばれたわけではないが、特に部活のないクラスメートで担っている渚のクラスの生徒たちはみんな顔立ちも振る舞いも明るく、人気がでてきた。
「君可愛いね。頑張ってね」
「あの先輩カッコいい!」
と、渚の隣にいる女の子も、
渚の隣にいる男の子も
みんなたこ焼きより生徒たちを目当てにされてるようだ。


わくわくした。

楽しい。
これで骸も来てくれたらもっと楽しいのに。
早く来ないかな。































正午過ぎたころ。


蒼い髪色の大学生。

その大学生に振り向く女性客や女生徒。

「何あれ超カッコいい!」
「あの人、大学生だよね?」
熱気がまた溢れる。
当の大学生、骸は学校案内を凝視していた。

「えーっと…渚のクラスはたこ焼き…」
わりとすぐに渚の教室についた骸。

だけど、渚の姿はない。

教室を間違えたのだろうかと思っていると

「あの…」
女の子の声がかかる。
振り向くと二人組の女生徒。
「なんでしょう?」
「あの、大学生の方ですか?」
「?…はい。」
よく状況がわからない。
「どこ住みの方なんですか?」
「えっと…?」
困惑していると
「試食はいかがですか?」
ついっと目の前にたこ焼き。

「あ。」
渚だ。
「形ちょっとくずれてますけど、ひとつどうぞ」
と、女の子達に一つずつあげている。
「おいしい!」
「買おうよっ」

と、列に並びはじめた女生徒二人。
「逆ナン?生意気ね」
と、骸にも差し出す渚。
「いや、でも助かりました…」
と、受け取り口に運ぶと
「うわ…本当においしいですね」
「お陰で早く上がれそう」
と、二人話していると

「あれ?渚その人誰?」
他クラスの生徒たちだ。
「やっべ!超好み!」
「おめーは相手にされねーよ」男の子がツッコミをいれる。
女の子二人が骸を品定めするかのように見る。
「友達なの?」
と、そんな女の子二人をよそに男子生徒が渚に聞いてくる。
「友達?なのかな…」
「ふぅん…」
つまんなさそうに男子は先にたこ焼きを買いに行った。

「吉徳君は?なんか渚ちゃん探してたみたいだけど…」
と、もう一人可愛い子が渚にくる。
この子はなんか裏がある感じで苦手なのだ。
「そうなの?忙しかったから携帯も見れなかったや」
と笑うと、
「吉徳君可哀想だよ…」
そうだ。この子は吉徳が好きなのだ。
だけど、
はずだけど、

ちらっと骸を見た彼女。
「渚ちゃんのお友達なんですか?」
骸は品定めする女生徒二人からその子に向いた。
「友達?なんでしょうか…」
と骸は腑に落ちない表情で渚を見た。
品定めに飽きた女生徒二人も、先ほどの男子生徒と一緒にたこ焼きへと向かった。

さぁ、君もたこ焼き買って自分のクラスに戻ったらどうかな!

と、内心さっさと帰って欲しかった。

「彼女さんはいるんですか?」
「まぁ、今はフリーです。」
渚は微笑む骸に、いらっとした。

「ねぇねぇ、たこ焼きっ売れちゃうよ!?」
「いいよ、別に。」
女の子は渚に見向きもしないで骸との距離をうまい具合に縮めていく。

吉徳が好きなんじゃないのか。
いつもトゲトゲしてるくせに、良い男が出てきたらこれか。


「ねぇ、骸…」
「骸さんて言うんですね?私は…」
と話をゴリゴリと骸に降り続ける。
何だかモヤモヤしてる渚に

「鈴鹿!また忙しくなってきたから入って」
とクラスの男子の声。

離れがたかったが、渚は二人のあとを離れた。

|

[しおりを挟む]
[Back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -