10
テスト二日目。
今日も手応えバッチリ。
そして今日のお昼は骸宅でごちそうになる予定だった。

渚が下駄箱で靴を履き替えていると、
「渚」
久々の声。
渚は思わず、げっと心の内で言ってしまう。

それは数年ぶりに再会したばかりの頃の骸に名前を呼ばれた時のようだ。

「吉徳…久しぶり。」
今思い出した。
吉徳とこうして言葉を交わすのは"あの日"以来だ。
テストだ受験だで会わなかったわけじゃない。

「テストどうだった?」
聞かれ渚は素直に答えた。
「結構悪くないと思うけど…」
吉徳はふうんと言って
「今日昼飯でもどう?」
と聞かれた。
ぎくっとする。
「今日バイトがすぐだからバイト先で食べようと思って…」
まかないかと吉徳はつまんなさそうに言うとじゃあまた今度なと手を振った。

余計な詮索もなくほっと胸をなで下ろし、渚は骸宅へ向かった。















「おや、思ったより早かったですね。」
と、骸は門の前で立って渚を待ってくれていたようだった。
「ああ…うん。ちょっとね、走ってきた。」
「見てたからわかりますよ」
クフフといつものように笑う骸。

あたしも少しだけ安心を得られてホッとする。
そしてもうすでに歩きなれているこの豪邸内。といっても、トイレとか骸の部屋とか広間とか
この豪邸内じゃあくまで一部しか知らないけど。

「走ってきたならおなかも空いてるでしょう。」
「そりゃもう!」
学校でまたテストの手ごたえを感じられたこと、昨日のテストが帰ってくるのが待ち遠しいこと、骸の大学の文化祭には絶対に行きたいこと
いろんなことを話した。

やっぱりただのお昼でもクオリティが全く違っていて、すごくおいしかった。
昔は自分だってこれに近いくらいの食事はしていたのに全く感謝もしていなかったし、おいしいとも思えなかったし思わなかった。

あんなにいっぱい椅子があったのに、
あんなに長いテーブルだったのに、
あんなにたくさんのお皿が広げれていたのに、


なのに一人ぼっちで食事なんて

馬鹿馬鹿しいにも程があって。

嫌いだったはずなのに。
広い家が。

気に入っていたのに。

「……」
「渚?」

おなかいっぱいだ。
「ちょっと寝ころばせて」
骸のはいを聞くと同時にふかふかのソファに体を沈めた。


なんでこんなにも今の家が悲しいものになっているのだろうか。

暮らし始めは本当にあのアパートが大好きだったのに。

狭くて
暑くて
寒くて
庶民的な


それを愛おしく感じられたのは





おばぁちゃん。




今も
狭くて
暑くて
寒くて
庶民的な


でも、
暗くて
息苦しくて
気持ち悪くて
痛くて




「おなかいっぱい…」

に、注がれた。

吉徳の愛が
絡む性が
すべての部屋になってしまっているあの家。






これから骸が勉強を教えてくれる。
骸がそろそろ勉強しましょうと言ってきた。


腕で目を隠すようにして涙を隠していた。

すぐにぬぐった。
ばれなかった。

はずだ。



吉徳に会ったことはまだ話していない。話す必要もないから。
いや

話したくなかった。

















七時。
帰る頃にはもう暗くなっていたので骸が家まで送って行ってくれることになった。

なんだか骸といるのが楽しくて、
家に一人になるのが寂しくて、

そして、今日で骸にこうして会いに行ける理由がなくなってしまった。

家に着かなくていいと思った。
だけど、そう思えば思うほど家に着くのは早くなっていった。

「骸一週間ありがとう。」
「いえ…」

もうこれ以上なにも話すことはなさそう。
だけどお互い「バイバイ」を言おうとしない。
「渚」
「ん?」
骸は微笑んで
「テスト…見せに来てくださいね。」
そうやけに真剣な表情の骸にドキドキした。
渚もまだまだ別れたくなくて、
「テスト返ってきたら…メールする。だからまた遊びに行ってもいい?」
「もちろんです。…渚がこれそうにない日なら、僕がここに来てもいいですか?」
骸のそれに渚は酷く安心した。
「うん。来て!」
その笑顔に骸は渚の髪を撫でようとした。
けど、いつものようにその衝動を抑える。
微笑み
「いつでも…メールでも電話でも待ってます。」

それをお互い言いあうと、今度はお互い
「「じゃあ」」
と言った。
「またすぐ会いましょう」
「うん。連絡する。」

バイバイ。

そう言って二人で背を向けた。


























骸の乗る車を見送った。
さっきまでの不安なんて全然忘れていた。



忘れていたのに

ッ…ツガチャッ…

鍵の音。
回した方向。

「…っ!!」
背筋に寒気が走る。
体中から血の気が引く感覚。

渚が気付いたときにはもう遅かった。
遅すぎた。

「遅かったな」

無意識に逃げようとしたけど
手首を堅く掴まれ、渚はその腕から吸い込まれるようにしてその部屋に”入った”

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