08
今日からしばらくテスト期間のためバイトの休みをもらっている。
いつもならテストなんて気にしないが、今年は渚も受験生だ。

だけどバイトがしばらくないことは吉徳には伝えていない。
最近メールも電話もないし、週末に家にも来ない。

相手もテスト期間だし受験生だしでだ。


そんな渚はある場所に招かれていた。

大きい…広い。
渚の実家も同じ位大きいが、普段のアパート暮らしで、金持ち感覚なんて忘れている。
大きな庭を通り、大きな玄関をくぐり、広い広い広間に使用人に案内される。

そんな渚に声が投げられた。
「いらっしゃい。」
「お、お邪魔してます…」
二階に繋がる大きい階段から渚を見下ろしているのは骸。
ここは六道家のお屋敷だ。

広く、この暑い時期でも涼しい空間に渚の声が響く。
「えっと…そっち行ってもいい?」
そう聞かれ骸は手招きする。
足早に骸の元へ行く。

「来てくれてありがとうございます。」
何だかいつもの骸とはまた違う雰囲気がある。
再開した時のように"金持ち"感が出ていて変に緊張した。
「え、あの…お招きいただきありがとうございます…!」
そう言う渚に骸が吹き出す。

「大丈夫ですから。いつも通りで」
そう微笑む骸に渚もほっとした。








「うわー…広い。シンプルでいいね」
骸の部屋に入り、部屋を見渡す。

残念ながら大きな窓から見える空は雨模様。

「じゃあ早速始めましょうか。」
その声に渚も重々しくもうんと答えた。









午後5時近く。

ベッドに腰掛ける骸。
「今日はこのくらいにしましょうか」
と、机に向かう渚に言った骸。
「うん。ありがとう。先生なんかよりずっとわかりやすかった。」
と、勉強道具を整理しながら言う渚。

今日から骸に勉強を見てもらうよう頼んでいたのだ。

「これから一週間君が僕の家に来てくれるんですね」
そう言った骸に渚が手を合わせて言う。
「大学の勉強も大変なのにごめん」
「大学の勉強なんて大したことはありませんよ。つまらないですし。」
そう骸が言った時、ドアをコンコンとノックする音。

そしてドアの向こうから女性の声
「骸様。骸様と渚様にと…」
と聞くと

「どうぞ」
と骸がそう言うとドアが開き、2人の女性が何かを手早く運んできてくれた。

ソファの前にあるテーブルに運び終えると使用人の女性達は失礼しましたとあっという間に部屋を後にした。
「渚、差し入れのようです。一緒に食べませんか?」
渚の今いる勉強用テーブルとはまた違うソファの方のテーブルの方へ行く渚。
またソファの隅に座る渚のすぐ隣に骸が身を沈める。

「美味しそう…!」
テーブルに並んでいるのは色鮮やかなデザート。

「お好きなだけどうぞ」
骸の言葉に渚はすぐさまいただきますと、一つ一つのケーキを美味しそうに食べた。

骸とも一緒にケーキを食べて、話をしてあっと言う間に6時過ぎた。


ケーキもさすがに量が多くて食べきれない。
しばらくソファに身をあずけていると骸が
「そろそろ帰った方がいんじゃないでしょうか?」
「あ、そっか」

そう言われすぐさま勉強道具を片付け、鞄に押し込む渚。
骸が部屋の入り口で待っている。
そして、玄関まで行き
「じゃあまた明日来るね。」
そう言った渚に骸は首を傾げて
「送りますよ?」
「え、いいよいいよ!」
遠慮するのは、何か悪いし、それに頭の隅で吉徳の顔が浮かんだからだ。

骸の微笑みが渚に向けられ
「明日も楽しみにしています。」
そう言われ、手を振った。

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