07
「吉徳大丈夫?」
と、背中をさする渚だが、吉徳はそんな渚に八つ当たりするかのように機嫌を損ね、舌打ちする。

「大丈夫じゃねーよ。…あ"あぁうっぜぇキザ男がよ!」
と、そばにあった換気扇を蹴る吉徳。

さすがのそれに渚も肩をびくりと跳ねさせる。

吉徳はそんな自分の彼女に見向きもせず渚を置いて先に帰ってしまった。



アパートに着き、鍵を入れてまわすと開く音が。
吉徳には一応合い鍵を渡してある。
どうやら今日は自分の家に帰ったらしい。
元々木曜だから居るともあまり思わなかったが、”これから”という時に骸の邪魔が入ったから先にアパートで待っているとも思っていた。

吉徳には悪いが、骸の邪魔はあたしにとって邪魔ではなかったけど。

渚はお風呂に入り、夕飯をすませ、水でも飲んでいると携帯が鳴る。

着信音だ。
きっと吉徳だろうと思った。
気が重いが、出ないとすごく機嫌を損ねるのですぐに携帯を手に取る。

が、

携帯を開き、ディスプレイを見ると
「骸…?」

少し感じたドキドキに気付かないまま電話に出る。

『あ…もしもし…?』
なんだか覇気のない骸の声。
「もしもし…?」
『あの…今会えますか?』
今日は吉徳は来ないだろう。
「いいよ。」

それを聞くと骸はホッとしたように息をふっと吐いたようだった。
そして
『すぐ行きますので待っていてください』
そういうと骸は渚の返事も待たずに電話を切ってしまった。

何だと思っていると、
ピンポーン…と静かにインターホンが鳴る。
「何?早っ!」
と、玄関前で髪型をそろえてドアを開ける。
「…お邪魔します。」
「いえいえ。ま、入んなよ」

そう言い、骸にお茶を出す。
「これ、あの彼氏のですか?」
と言い、渚が差し出したコップを手に取り言う骸。
「そうだけど…」
そういう渚に骸が言う。
「本当にいつもあんな扱いされているんですか?」
「…みんなあんなもんだよ」
とっさに出た言葉だった。
「骸が優しいだけだって」
そう笑ってみたけど、なんか虚しくなって泣きそうになった。

みんなそうでもない。
普通あんなに彼女の事なんて加減もなくぶったりしない。
こんなに見えないところに痣なんてつけない。

でも、泣くなんてしない。
今までずっと吉徳を自慢の彼氏だってみんなに紹介してきたし。
容姿も良いしスポーツ万能で成績も悪くない。
そんな吉徳が彼氏なんてとうらやましがる女の子なんてたくさんいた。


でも、吉徳はあたしだけしか見なかった。
どんなに渚より可愛い子でも、どんなに渚より美人でも
吉徳は全く靡かないでいてくれた。
あたしはそれに答えたい。


答えたいはずなのに

「渚…」
無理しているんじゃないですか?
そう聞こえてくる

その骸の表情ひとつで瞳が潤んでしまう。

気にとめてくれる優しさが嬉しかった。

「ありがとう…。骸」
そう言った自分の言葉で涙を落とした。
すでに出来ている背中の痣を撫でるように骸が背中をさすってくれた。

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