「命令だ。必ず生きて戻れ、必ずだ」
「はッ、仰せのままに」
お嬢様は全速力で車をバックさせた。
燃え盛る街の中、私の前にいる男はあの時の―――――――
「……やはりッやはり貴様か!!」
1944年9月のワルシャワで会った時と同じように大尉と階級名で呼ばれるこの男は、張り巡らした私の銅線をいとも容易く掴んだ。
今まで切断出来ない"ゴミ"などなかった。手元を動かせば、目の前の"ゴミ"は私の視界からスルリと赤い飛沫を上げ消える。あの日もいつものように手元を動かし奴らに銅線を張り巡らせたが、私の視界から男は消えなかった。
「人狼…!」
あの日、自分は小僧であいつもまた幼い少女の姿をしていた。人間である私はずいぶんと老いて、あいつはいつの間にか青年の姿に戻っていた。けれども私の決心はあの日から何一つ変わっていない、今だに小僧のまま。馬鹿げている、のかもしれないがもう遅いのは確か。私は導かれるように太った眼鏡の少佐がいる飛行船へ銅線を伸ばしている。もし、あの時の自分がもう少し大人であったなら、こうはならなかったかもしれない。
ただ一つ名残惜しいものがある。お嬢様だ。アーサー様、インテグラお嬢様と二代に渡り執事のお勤めを果たしてきた。否、果してはいないな。
私は彼女に忠義を尽くし、心の底から主君としてではなく一人の女性として愛していた。そしてこれからも愛し続けるだろう。
美しい主君、私は身も心も本当の死神になりましょう。
この夜明けにアーカードを切断するべく。
勢いに任せてウォルグラ書いてしまった。この人たち好き。
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