「しょ、少佐!」

「なにかね?」

「えっと、あの、やややっぱりなんでもありませんッ!」

頭上にハテナマーク残す少佐からダッシュで逃げるとエリーゼはいつものように落ち込む。

また言えなかった。

ドクも大尉も席を外していたので気持ちを伝えられるチャンスだったのだがどうもこうも少佐を目の前にするとうまくいかない。
肩をがっくり落とすエリーゼにどこからともなくやってきたシュレディンガー准尉は呆れている。エリーゼが少佐に想いを寄せているのを知っているのは准尉のみであり唯一の恋の相談相手でもあった。

「仕事の時と違ってこういうことに関しては少尉って弱気だよね。早く言っちゃいなよー」

「うぅ、否定できないのが悔しい。言いたいけれどあの人戦争以外興味なさそうで…」

「確かに」

あまりよろしくない相談相手でもある。碧眼にうっすら涙が浮かんでいるのを見て准尉はやってしまったとばかりにすかさずフォローになっていないフォローをいれた。

「大丈夫、少佐はああ見えて女の子好きそうだしそれに少尉は可愛いから。それじゃあね〜」

存在があやふやな猫は逃げるようにして去ってしまった。これも毎度のことである。
大嫌いな太陽もすっかり沈み美しい満月と星たちが夜空を彩る。

「少尉は満月が好きかね?」

振り返ると両手にワイングラスを持った少佐。そのうちの片方を差し出されたので、受け取り礼を述べると少佐は満足そうな顔をした。思いもよらなかった人物の登場、しかもワインまで頂いてしまいエリーゼは困惑した。

「おや、飲まないのかね?」

「えっ、いや、の、飲みますよ!」

勢いに任せてワインを口の中に流し込む。

「はっはっはっ、まるでビールのイッキ飲みだな。ワインは香りを楽しみながら飲むものだぞ、少尉」

恥ずかしいと思う反面、ビールと聞くと懐かしい故郷での思い出が脳内で映像化される。
そういえば初めて出会った時にもワインを頂いたような……エリーゼの頬はほんのり赤く染まった。少佐は隣でゆっくりとワインを味わっているかと思うと突然口を開いた。

「そういえば初めて出会った時も君にワインを渡したな。"美しいフロイライン御一緒してもよろしいですか"と。確かに少尉、君が吸血鬼だと私は知っていた。けれどこんなにも美しい吸血鬼だとはね」

ほんのり赤かった筈の頬はいつの間にか自分でもわかるくらい赤く熱を帯びている。今なら言えるそう思ったときだった。

「少尉、そろそろ夕食の時間だから戻るぞ。」

少佐は先に立ち上がり唖然としたエリーゼを残し行ってしまった。

「ま、待ってくださいよ!少佐ー!」

あとを追い掛けるエリーゼをどこからともなく現れたシュレディンガー時間准尉は笑った。












少佐は気づいてた……かもしれない。頑張れ夢主。ちなみに夢主は元から吸血鬼設定でした



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